第007話 {連絡網}の練習
土曜日の夜、家族会議が終わり、晩ご飯を食べた後、妹のひかりを僕の部屋に呼んでおいた。もうすぐ来る頃だ。
ひかりには、宇宙人の先進技術による通信機能{連絡網}の練習台になってもらう。
今後を考えて可愛い妹と情報を共有しておきたい、ということもある。
しかし、今夜の主目的は{連絡網}の練習だ。
今後、重要業務において関係者と秘匿性の高い連絡を行う場合、スマホのような普通の通信手段を使う訳にはいかない。盗聴されたり位置を特定されたりする危険があるからだ。{連絡網}はその対抗手段だ。
{連絡網}とは{リンク}の機能を人間用に簡易化した通信機能だ。簡易と言ってもスマホより格段に優秀だけどね。僕が一人で扱えるように影ッちが設定してくれた。
通信範囲は僕のいる場所を基点とした半径1光年以内、つまり太陽系のほぼ全域で、しかも超光速で瞬時に通信できる。同時接続数は僕の頭が対応できる範囲ならば無制限らしい。
用途別にグループを作れるので、早速{仕事人}と名付けたグループを作った。
頭の中で「♪チャララー、チャッ、チャッ、チャッ…」って鳴り響いたそこのあなた、年代バレますよ。
{仕事人}のメンバーはだいたい決めてある。
まず、ひかり。このあと練習台になってもらう。
次に、影ッちが選抜したファースト・コンタクトの候補者、私も含めて4人。こちらは週明けに一人ずつ勧誘して回るつもりだ。候補者の情報はすでに聞いておいた。
それから、影ッちが生成して今は待機状態の人工個体3人。影ッちにお願いして廃棄は保留にしてもらっている。最終的にどうするか未定だけど、候補として検討中だ。
この合計8人が当面の候補だ。
ドアがノックされた。ひまりが来たようだ。
「お姉ちゃん、来たよ。」
「やあ、すまないね。」
「それで、やっぱり宇宙人の相談なんでしょう。」
「そうだよ。口を開かなくても直接メッセージをやり取りできる宇宙人の通信機能の練習台になってもらいたいんだけど、いいかな。慣れるまでちょっと気持ち悪かったりするかもしれないけど。」
「いいよ、もちろん。」
参加の了解は取り付けたので、{仕事人}にひまりを追加した。
{もしもし、お姉ちゃんです。通じてるかな?}
ひかりの表情が誕生日のプレゼントを開けるとき見たいにぱあっと明るくなった。
「えっ、なになに、これなに、なになに、ええええ!」
うまく使えた。
{落ち着け、ひかり。言語能力が落ちてるよ。}
「すごいすごい。これテレパシーか何かなの。宇宙人の力なの。」
{これは宇宙人の通信機能{連絡網}だよ。たった今ひかりをメンバーに登録した。}
{グループ名は{仕事人}だから、覚えておいて。}
「うん、わかった、仕事人ね」
{それからひかり、あなたからも発信できるから、口を開かないでいいよ。}
ひかりの瞳がさらに大きく見開かれた。
{え、え、ほんとに使えるの、いいの、お姉ちゃん。これ届いているのかな。}
{大丈夫、届いているよ。}
{ひゃ~、口を動かしていないのに、すごいや。これなら口の中に食べ物がいっぱいでもお話しできるね。}
{いや、待て、ひかり。それはお行儀悪いと思うぞ。なかなか小学生気分が抜ないよね。もう中学生なんだから、しっかりしなよ。}
{わかった、気をつける。}
{じゃちょっと部屋から出て通信できるかやってみて。}
{うん。}
{いま、お姉ちゃんの部屋を出ました。}
{リビングです。お母さんは台所です。}
{トイレです。}
{お風呂です。}
{玄関です。ちょっと家の外に出てみます。どこまで届くか実験だよ。}
{ちょ、ちょっ、もういい、戻っておいで。}
{は~い。}
練習はこのくらいでいいかな。僕は{仕事人}の接続を切った。
ひかりが半分泣きそうな顔で部屋に戻って来た。
「ねえ、もう終わりなの。」
「うん、ちょっと練習してみたかっただけだからね。」
「ええ~、もう少し遊ぼうよ。」
「ひかり、これは仕事用の機能なの。遊びじゃないのよ。」
「けち。」
「ひかりの方からいつでも接続できるようになっているから、本当に必要だと思ったらいつでも使っていいよ。あくまで必要なときだけだからね。」
「は~い。」
「じゃ、練習ね。ちょっと発信してみて。念じるだけいいよ。」
ひかりが可愛いお口を一文字にしたかと思うと{仕事人}が接続した。
{できた!できたよね!}
{うん、できたね。今度はそのままそっちから接続を切ってみて。}
接続が切れた。
うん、うまくいったね。
「じゃあ、練習はこの辺でお終い。ありがとね。」
ひかりの不満そうな顔は完全スルーだ。
{連絡網}の練習はこのくらいにしておこう。
(作者より)
「第005話 影ッちの日本語業務日誌」のPVが前後のエピソードの半分くらいしかありません。読み飛ばした人が多いようです。ご確認の上、是非そちらもお読みください。原因不明ですが、どなたかお分かりになりますか?
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