第002話 ファースト・コンタクト(2)

 窓の外に見えたのは、都会では見ることができないキレイな星空だった。キレイすぎるほどキレイだ。街灯の無い山奥とかで見るような星空だ。


 窓に歩み寄ると、ヤバいことに気がついた。


 眼下に「地上」とか「地面」とかではなく、青く輝く円い地球が見えていることだ。


 なんだ、これは。どう見ても宇宙から見た地球だな。お月さまより何十倍もでかい。


 豆粒ほどに小さいが日本列島らしきものが見える。


「こりゃー、静止軌道上だな。」


 「静止軌道から見た地球の視野角は二十度で月の四十倍くらいに見える」と、天文に詳しい人から聞いたことがある。目の前の地球も大体そのくらいだ。


{その通り、ここは日本の上空3万6千キロメートルの静止軌道上を移動中だ。}


「ん、待って、静止軌道上なのになんで無重量状態じゃないんだ。」


{地球人のために地上と同じ重量となるよう重力制御を行っている。}


「なるほど。」


 遠心力で作る疑似重力とかじゃなくて直接的な重力制御か。とてつもない技術力だ。


「これ、写真とか撮ってもいいですかね。」


{構わない。}


 僕はできるだけ日本列島がきれいに映るようズームして数枚撮影した。


 展望室の作りをじっくり観察してみた。


 部室からのぞき込んでいる時は細かいところまで見えなかったけれど、これは本格的に福岡タワーの展望室とそっくりに作ってある。


「ここは福岡タワーに似ているけれど、福岡タワーをモデルに作ったのかな。」


{その通りである。}


 やはりね。


 いやいや、そんな細かいことよりも先に聞くべきことはたくさんある。


「で、お宅、どちらさんですか。ていうか、このテレパシーみたいなやつはナンですか。キモイんですけど。」


{私は天の川銀河を統べる知的生命体「銀河中心体」で地球人保護を担当する役人だ。}


{私は地球人保護を君に依頼するために来た。}


 うわー、キタコレー。


 もしかしたらって思っていたけど間違いない。宇宙人だ。ファースト・コンタクトだ。


 SFオタクとしては他に思いつかない。


 でもなぜ僕のところに来たんだろうか。びっくりだぜ。


 しかも僕に地球人保護を依頼するって、何事だ。僕ワクワクすっぞ。


{この伝達方法{リンク}は私の思考をできるだけ正確に伝える手段である。不快ならば音声のみにしてもよい。}


「いや、正確に伝わるんなら我慢する、{リンク}のままでもいいよ。」


「ところで、もしかしてだけど、僕の思考は口に出さなくても駄々洩れですか。」


{そうである。君は口を開く必要が無い。}


 あああ、やっぱりそうでしたか。じゃ、無駄口は叩かず考えるだけにしとくか。


{騙す意図はなかった。思考読み取りは容易な技術だ。}


{話が長くなる。そこに掛け給え。}


 座り心地の良さそうなソファーが用意してあったので有難く座らせてもらった。


 映像っぽいものやそれ以外の得体のしれない感覚と言うか認知と言うか、なんらかの情報が{リンク}に乗って時々入っていたけれど、ここから先は情報量が急増し、銀河やら文明やらの立体VR映像空間にザックリ食べられながら話が進んだ。


 一言では説明し難い膨大な情報が一気に入ってきたが概略は理解できた。


 要点はこうだ。


 かつて天の川銀河中心の巨大ブラックホールをエネルギー源として発達した文明があって、何十億年も前に物理的な制約から解き放たれた精神体へと進化した。


 精神体は自らを「銀河中心体」と呼んでいる。今となっては銀河中心の巨大ブラックホールは主要なエネルギー源ではないし、活動域も銀河中心だけではなく銀河全体に、さらには他の銀河や時空にまで広がっている。


 だけど、自らの起源、アイデンティティーを示すものとして「銀河中心体」と言い続けているらしい。


 精神体になったことで時空間の制約から解き放たれた銀河中心体は、銀河のあちこちに生まれた生命・文明を観察し、保護し始めた。


 そんなことして何の得があるかって、どうやら人間が野生動物を保護しているのと同じ感じみたい。


 観察・保護の対象となっている星系は無数にあるため、星系ごとに担当が分かれているらしい。


 さてと、こんな理解でいいかな。SFオタクでなければ理解出来てないぞ、こんなの。


{素晴らしい、短時間で正確に理解できている。感心した。}


 ところで、そろそろお名前を教えてもらえないでしょうかね。


{私の名前は、というか我々の使用する言語は、音声でも画像でもなく時空間そのものの変動を媒体として用いている。そのままでは地球人に教えることができない。そこで情報量を削った上で地球人が理解できる帯域の音声に変換することになる。}


{私の名前を音声に変換したものは、地球人の発声機構で発音することも、地球人の聴覚能力で聴き取り認識することも、地球人の言語体系で表記することも、いずれも不可能だ。}


{そういった前提であるが、あえて日本語で一番似ている音で標記すると「カーゲラリ」となる。一番似ている発音記号は「kgaadkgfaoujvd;laj」。}


 なんかスッゲーいやな音というかイメージが鳴り響いた。音声読み上げソフトの方がまだマシなんじゃないか、これ。


{この他の言葉についても、銀河中心体側の単語は同様にできるだけ原音に近い日本語表記、または意味の近い日本語で代用する。}


{「銀河中心体」とか「役人」とか言った表現は、この後者「代用」だ。完全に正確ではないかもしれないが、最も適切と思われる単語に置き換えてある。}


 カーゲラリさんですね。呼びにくいんで、影さんと、いや、なんかちょっと堅いな。


 じゃあ、影ッちにします。いいですよね、よろしく、影ッち。


{好きに呼ぶと良い。}


 知っていると思うけど、僕は田中ひまり。


{前置きはこのくらいで切り上げてよろしいかな。}


 あー、どぞどぞ。


(作者より)

 「おたほね」第002話をお読みいただきありがとうございました。


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