2.配信翌日、まさかのすれ違い?






 昨日の配信は、いつもより少し盛り上がったと思う。

 もとより高校生が趣味とやっている配信だけど、どうせなら見に来ている人たちには楽しんでもらいたいのが本音だった。それに分からない漢字があったりしたら、シンプルに勉強になったし、実生活に活かせそうな気がする。


 そんなこんなで、今日もいつものように学校生活が始まった。

 俺は気怠い思いを隠そうともせずに、大きくため息をつきながら机に突っ伏す。授業が始まるまでは、決まってこのように過ごすのだった。



「でさー! 昨夜、杏ったらメッセージめっちゃ無視してさー!」

「それはゴメン、って謝ったでしょ? アカネも鬼連打やめなよ」

「許しませーん! アタシずっと待ってたんだもん!」



 そうしていると、近くに陣取っている例の女子グループの声が聞こえてくる。

 どうせ俺とは無関係な、つまらない話だ。しかし放課後も友達同士でメッセージのやり取りをするなんて、窮屈な暮らしになりそうだとも思う。

 もっとも、それが楽しい人種なのだ。

 そもそも論として、こちらとは住む世界が違う。



「おーい、そろそろ授業始めるぞー」



 そう考えていたら、朝の貴重な睡眠時間が失われてしまった。

 俺はゆっくりと面を上げて、一つ息をつく。

 そして、国語教師の話に耳を傾けた。



「えー……では、この漢字を読める奴はいるか?」

「あ、あれって……」



 すると、その中で出てきたのは昨夜の配信の問題に出てきた難読漢字。

 俺はしばし硬直し、回答しようか悩んでいた。その直後だ。



「……は、はい!」

「おお、狛田。珍しいな、答えてみろ」



 女子グループのリーダー――狛田杏が、緊張した面持ちで手を上げたのは。

 周囲の生徒たちはみな、驚いて口々に何かを言い合っている。俺もその一人だったが、どうせ答えられないだろうと正直少しだけ馬鹿にしていた。

 だが、狛田は一つ呼吸を挟んだ後にしっかりと、こう口にする。



「えっと……『沓石くついし』です!」

「おぉ、正解だ。もしかして、今日は槍が降るのかもしれないな」



 すると、教室内はどよめきに包まれた。

 まさか成績最下位に近い狛田が、あのような漢字を読むとは誰も思わなかったのだから。かくいう俺も、彼女に対する見方を改めなければと思わされた。

 だけど、先生の言葉に対して狛田はこう応える。



「槍が降る……? 先生、なに言ってんですか」

「なぜ、その比喩が分からないんだ……」



 なんとも、良く分からない。

 俺は思わず眉間に皺を寄せたが、とにかく彼女は嬉しそうだった。

 しかし、思わぬ偶然があるものだ、とも思う。俺はそう考えながら、頬杖をついてしばし窓の外に視線を投げるのだった。





「杏、すげーじゃん! マジで!!」

「私にかかれば、あれくらいは楽勝よ」

「あはは! マジで漢字博士かもしれねぇ!」



 ――午前の授業を終えて。

 杏の周囲には、彼女の取り巻きに加えて数名の男子生徒がやってきていた。たった一問答えただけだが、杏はいまちょっとした話題の中心である。

 そのことに少しばかり得意げな彼女は、ふと昨夜の配信を思い返した。



「……ん、杏どした?」

「え、あぁ……なんでもない!」



 だが、友人にそう訊かれて首を左右に振る。

 おそらくは彼らに話しても、理解されないと思ったのだろう。よもや自分がVtuberという人の配信を見に行ったなど、伝えようにも苦心しそうだったから。

 杏はひとまず作り笑いで皆の言葉を流し、ちらりと天野の方を見た。

 彼は今日も、昨日と変わらずラノベを静かに読んでいる。

 表紙に描かれているのは、あの配信で見たような綺麗なキャラクターだ。



「……あいつなら、私の話も分かるのかな?」



 思わず、そう呟く。

 幸い誰にも聞かれなかったそれは、喧騒の中に溶けていくのだった……。




――――

ここまでオープニング(*'▽')

この先、二人の距離はどのように縮まるのか。



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俺をからかっていたギャルが、ふとした拍子にVの配信を見た結果。 あざね @sennami0406

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