1.退屈な時間と、運命の出会い。
――『明智竜也』というのは、Vとしての俺の名前だ。
立ち絵や3Dモデル、その他に必要なものはすべて自分で用意した。某配信サイトで活動を開始して、かれこれ三年目となる。中学の部活を引退して燃え尽き症候群となっていた俺にとっては、もはや生きがいと呼んでも良いものとなっていた。
もちろん、両親以外には秘密の活動だけど……。
「……みなさん、こんばんは! ちょっと遅刻してしまい、申し訳ないです!!」
俺がマイク越しに挨拶すると、画面の右側にあるコメント欄が勢いよく動き始めた。活動も三年目となれば、界隈やリスナーからの認知もそれなりに多い。
登録者数こそまだまだ中堅といったところだが、群雄割拠の配信界隈と考えれば、むしろ悪くはない結果だと言えるだろう。それにもともと、平々凡々な中学生が趣味で始めた配信だ。
将来的にはもっと大きくなりたいが、いまは個人として全力で頑張りたい。
『今日は何するんだっけ?』
『明智くん、かわいい』
『今北産業』
そう考えているうちに、開始直後のコメント欄はやや統率が取れなくなっていた。
これは早速だが、今日の本題に入るべきだろう。
「さて今日は、いま話題の漢字クイズのゲームをやっていきたいと思います!」
『おぉ、現役学生の勉強会か!』
『どれどれ、おじさんたちが教えてあげよう』
そんなわけで俺は、準備していた配信ソフトを操作した。
すると画面に、某クイズ番組のようなゲーム画面が表示される。
「いやいや、プレイしている間はコメント欄閉じますからね?」
『えー、残念www』
「それじゃあ、いまから少し気持ちの準備します!」
『はーい』
何気のない会話に、何気のない配信。
俺はコメント欄を一度閉じてから、マイクもミュートにして一つ呟いた。
「……俺の居場所は、ここにあるから良いんだよ」――と。
そして、気持ちを切り替えてゲームを開始する。
その日の配信では、ずいぶんと無知を晒してしまった気もした。
だけど、リアル以上に等身大でいられる場所。
そんなここを俺は、とても温かく感じているのだった。
◆
「はぁ、さっぱりしたー……」
――一方その頃、狛田杏は風呂上がりに自室でくつろいでいた。
あっさりとしたメイクも落として、素顔に戻った彼女は大きく息をつきながらベッドに腰かける。学校では仲間内のノリに付き合う必要があって、どうにも居心地が悪いと感じてはいた。
「うわ、アカネのやつ……鬼みたいにメッセージ送ってきてる」
それでも、それが自分にとっての居場所なのだろうと思う。
趣味は合っているし、好きなものの話題も同じなのだから文句は言えなかった。それに少なくとも、退屈な学校での時間を楽にしてくれることには感謝している。苦手な勉強や、面倒な体育の授業も、放課後のバカ騒ぎと天秤にかければ考えるまでもなかった。
「あー……でも、暇なんだよねー……」
でも、それはあくまで学校での話。
杏にとって一番の苦行は、何もない家で過ごす時間だった。
仲間にメッセージの返信をしてから、手持無沙汰になった少女はベッドに倒れこみながら天井を力なく見上げる。返信を待っている空虚な時間は、余計なことを考えてしまいそうになるから嫌いだった。
「課題なんてやる気起きないし、どうしよ……」
雑誌を読もうかとも考えたが、あいにく未読のものはない。
そうなると、本当にただただ暇なのだった。
すると、ふと思ったのは――。
「そういえば、天野の持ってた本ってどんな名前だっけ?」
放課後の教室にて、仲間とイジって遊んだ男子生徒の本だった。
俗にいうラノベというものだが、杏にその知識はない。ただタイトルだけは、なんとなく記憶に引っかかっていた。
「たしか、Vtuberがどうのこうの……てか、Vtuberってなんだっけ?」
そして、芋蔓式にそんなワードに疑問を持つ。
おもむろにスマホを手にした彼女は、眉間に皺を寄せながら検索し始めた。適当に調べただけでも、膨大な量の文章が表示される。
「うがー!? なによコレ、意味わかんない!!」
……そのため、考えるより先に。
杏は検索結果の一番上に表示された某配信サイトを開いた。
そして新着の配信一覧の中から、ふと目に留まった名前を口にする。
「ん、あけともりゅうや……? 誰それ」
思い切り読み間違えていたが、それこそ運命の出会い。
杏は彼の配信を開き、そして――。
「へぇ……?」
まるでラジオを聞くような感覚で、耳を傾け始めたのだった……。
――――
あけともりゅうや(*'▽')w
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