俺をからかっていたギャルが、ふとした拍子にVの配信を見た結果。

あざね

オープニング

プロローグ 地味な少年と、派手な少女。





「ホント、天野って典型的なヲタクだよね~! マジウケる」

「…………」



 放課後の教室にて、一人の男子生徒が数名の女子にからかわれていた。

 ぼさぼさの中途半端な長さの髪に、黒縁の大きな眼鏡。顔立ちが悪いわけではないが、色々と手入れの行き届いていない残念さが際立っていた。それでも不必要に悪目立ちをする雰囲気がある、というわけではない。


 そんな少年が女生徒たちから、からかわれるキッカケとなったのは彼が持っていた一冊の本だった。表紙には可愛らしい少女が描かれている。俗にいうラノベという名のそれを見つかったことで、少年はいま嘲笑われているのだ。



「え、なんなの。こんな大人しそうな女の子が好みなん?」

「ウチらとは正反対だよねぇ、こんな子!」

「マジでウケるんですけど! ねぇ、杏もそう思うよね?」



 天野を取り囲む女生徒は、計四名。

 派手な外見をしている以外、それぞれに特徴はない。だが一人だけ、話題を振られた杏という少女だけは、他とは違う雰囲気があった。

 茶色に染めた長い髪に、少しばかり日に焼けた健康的な印象を受ける肌。目鼻顔立ちはハッキリしており、つけまつげなど、目立つメイクはしていなかった。だが、それでも他とは一線を画する美貌を持つ彼女は、この面子の中心人物らしい。


 杏はイジっていたネイルから視線を外し、ちらりと天野を見た。

 そして小さく、冷たい笑みを浮かべて同意するのだ。



「ん、そうね。……マジで恥ずかしい」

「でしょー? あはは!」



 それを聞いてまた、取り巻きの女子は笑う。

 天野はそれに対してうつむくだけで、何も言い返しはしなかった。そんな彼の様子を見て、杏はどこか詰まらなさそうな様子でこう口にする。



「ホント、少しくらい男らしくすればいいのにね」――と。




 その言葉を耳にしてようやく、天野は手を微かに震わせるのだった……。







「はぁ……ホントに、何だってんだよ……」



 帰宅した俺は、ベッドに身を横たえてため息をついた。

 放課後に面倒な女子に絡まれて、無駄な時間を過ごしてしまったと思う。そんな時間があるのなら、さっさと家に戻って課題でもしていた方がマシだった。

 そう考えつつ、ゆっくりと身を起こす。



「さて、と。……遅くなったけど、そろそろ配信を始めるか」



 そして、おもむろにゲーミングパソコンを起動した。

 諸々の機材の準備はできている。だから、あとは――。



「マイクも、大丈夫。……よし!」




 俺は気合を入れ直し、こう口にするのだった。




「今日も楽しい時間の始まりだな!」




 液晶画面に、配信者のユーザー名――『明智竜也』――が表示される。

 それこそが俺のもう一つの名前であり、居場所だった。



 

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