第11話 クーデター阻止

 騎士団で訓練をしつつ、王族の方たちとも交流が増えてきた。グネヴィア殿下はお茶会に誘ってくれるし、ベンド王子も話をしつつ剣術の稽古を一緒に受けたりしている。グネヴィア殿下は相変わらず俺を派閥に入れるように勧誘してくる。


 それをずっと断り続けて、今日はベンド王子と剣術の稽古をしながら今の現状について話し合った。稽古終わりの軽い雑談ということで誰にも邪魔をされないように話すことができる。


 この前俺の訓練に紛れ込んでいた第二王子派閥のことについてだ。


「我が弟、カルトも政争についてなんとなく察し始めたようだ。というより、周りの者が教え始めたらしい。今回の間者も弟がワガママを言ったからだそうだ」


「ベンド王子。正直に言ってください。このまま政争が起きたら世界はどうなると思いますか?」


「帝国ではなく、世界か。……我が国の武力によって世界統一を果たそうとしている現状に穴が空く。帝都が落ちれば世界中で革命が起きるだろうな。……まさか⁉︎」


「僕の使い魔が調べてくれました。第二王子派閥は現状に不満がある他国の人間を自分の派閥に入れています」


 サラマンダーとシルフによって調べてもらった情報をベンド王子に提供する。いや、正確には他の大精霊を探してもらっている間についでのように手に入れた情報だけどな。


 帝国はとにかく戦争をふっかけるので嫌われている。帝国が戦争をしようとすれば徴兵されて食料なども負担される。税だって奪われて、国は支配される。これを受け入れられる国は少ないだろう。


 正直帝国の外交政策はまともじゃない。占領したら貴族に支配させてほぼ放置、という形なんだから。元王族、元貴族の人間ほど許せないだろう。そんな人間に対して第二王子派閥は甘い言葉を投げかけて味方にしているのだ。


 敵の敵は味方理論だ。捨て駒にしているだけなのに。


 俺の言葉を聞いて第一王子は第二王子派閥の脅威を悟る。グネヴィア殿下よりも危険だと判断したのか眉間にシワが寄る。事実、グネヴィア殿下は派閥を集めるのは国内で留まらせている。自分たちに負けた敗者の力には頼らないと。


 たとえあまり力がなくても数は力だ。そして恨み憎しみというのは思いがけない力を発揮する。見縊ってはならない要素だ。グネヴィア殿下は周りを気にしすぎて足元と背中がお留守のようだ。


「はぁ……。弟の派閥を潰すか」


「それが良いかと。あなた様は国を守護した英雄となります。そうなればこの国は安泰でしょう」


「「っ!」」


 俺とベンド王子が声のした方を振り返る。向いた先にはル・フェとセシルが。いつからそこにいたんだ。サラマンダーがいないから感知なんてできていなかった。ル・フェが政争になんて興味がないと思ってこっちに来るとは思ってなかったから警戒なんてしてなかった。


 というか、ル・フェがベンド王子に何の用なんだ?


 ベンド王子も滅多に会わないル・フェに緊張しているのか、冷や汗をかきながら口を開く。


「魔女様。いかな御用向きで?」


「様はいりませんよ、ベンド王子。私は国に仕える宮廷魔術師。国の危機には馳せ参じますとも」


「そうですか……。ではモルゴース殿。あなたは現状をどこまで把握されていますか?」


「息子が知っているようなことはほとんど知っていますよ。第二王子の派閥が現在手を出している国は三つ。フラン、イタリー、ローム。元大国だったためにかなりの戦力になっていますね」


 おお。俺が集めた情報と一致する。元々資源も豊富で人口も多い。俺が死ぬ前から帝国が攻め込んでいた国で、ル・フェが積極的に力を使って平定した国々だ。


 サラマンダーが主に調べた結果だが、精霊を探すついでに国々のおかしな動きを察知して俺に報告してくれた。それらを纏めた結果、三国が第二王子に支援していることがわかった。


 この前の訓練の際に来ていたのはローム、一番遠い国だった。小国ではあるものの文化の発展が凄まじく、かの国から流れてきた文化は帝国でも愛されている。


 その文化が依代になって人口も多かった。そんなロームに負けず劣らずフランもイタリーもかなりの戦力が集まっていた。一度負かしたとはいえ今でも戦力を補充しているらしい。戦争のために徴兵をしているものの、距離的な問題で毎回出兵させていないとはいえ、戦力を補充しているのは怪しい傾向だ。


 これでこの三国が第二王子のクーデターに合わせて革命を起こしたら帝国でも危ういだろう。


 ル・フェがいなければ。


「ベンド王子。あなたは正統なる帝国の後継者です。この国を火の海に変えないために、第二王子を捕らえましょう」


「……あなたは、私の味方だと?」


「ええ。私は宮廷魔術師ですので。皇帝陛下が推しているあなた様の味方ですとも。ですから息子もあなたとだけ親密にしていたのですよ?」


「ん?確かアークは姉上のお茶会によくお呼ばれされていたと思いましたが?」


 ル・フェから何か指示を受けたわけではなく、グネヴィア殿下のお茶会には少なくない回数で受けている。そのためベンド王子からは変に思われたわけだ。


 俺からすればグネヴィア殿下から誘われすぎて最低限の付き合いをしているに過ぎないのだが。


「あまりにも声をかけられる回数が多くて、断りすぎると相手にも悪いので受けています。優先はベンド王子ですよ。グネヴィア殿下とは隔月に一回くらいお茶会をしていますが、ベンド王子とは月に何度もこうして話しているではないですか」


「その辺りも私から話しておりました。我々宮廷魔術師が優先すべきは帝国のこと。そして帝国にとって王子こそが皇帝の椅子に座るべき御方です」


 俺も同意見だ。それが何よりも面倒がない。


 ル・フェも案外同じ理由なんじゃないだろうか。何かの目標のために国のことを後回しにしたいからこそ最短で面倒ごとを終わらせたい。そのための必要経費として今行動しているって感じだ。


 俺とル・フェから援助を申し出られたからか、ベンド王子は確認をしてくる。


「つまり、モルゴース殿はすぐにでも弟を捕らえるべきだと?」


「はい。火種になる前に動きましょう。事実、属国の戦力とはいえ王族に力を向けるのであれば立派な反逆罪になりますから。私とアークを戦力として使ってください。あくまで主戦力は王子です。私たちは力を貸しただけ。それがあなたを玉座へ誘う」


 これは正統な行動。そして国を守るための最善手。


 もしクーデターが起こるなら家族も国民も失う。そして帝国という暴力の化身がいなくなった世界は新たな列強国となるべく全世界規模で戦争となるだろう。それを防ぐための正義の行動とも言えるだろう。


 今世界を統一しようとしている帝国が何を言ってるんだって話でもあるが。


「……わかりました。証拠もあるんですね?」


「ええ。今こちらのセシルに情報を纏めてもらっています。ただ真っ黒ですので今から動いても問題ないでしょう。騎士団を動かすのも時間がかかるでしょう?」


「ええ。父上には話を通しておきますか?」


「私の方から話しておきます。王子は準備を進めてください。アーク、王子を手伝って差し上げなさい」


「はい」


 ル・フェはそう言って去ってしまう。セシルは逆にここに残って俺を手伝ってくれるようだ。


 さて、俺がすべきことは密告かな。


「殿下。私には精霊という力を貸してくれる存在がいます。彼らは魔術師にしか姿が見えません。つまり諜報にはうってつけの存在です」


「そうか。ではそれで次の会合の時を探ると」


「ええ。ですので騎士団と、親衛隊を動かす準備を」


「わかった。──頼りにしているぞ、アーク」


「はい。殿下」


 本当は精霊は人間にだって見ることはできるけど、姿を消すことはできる。ほぼ透明な状態はマナを見ることができる存在にしか知覚できない。諜報にうってつけというのは嘘じゃない。


 そうしてサラマンダーを呼び出して第二王子派閥を監視させて。


 十日後の夜。夜襲が実行された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

精霊王の再誕〜孫に産まれ変わった王、国を取り戻す〜 @sakura-nene

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ