八咫烏

陽色

第1夜 ~飛び立つ~

「ふぅ……もうこんな時間か……」

オイルまみれの右手に着けている腕時計は20時30分を指している。

ここから集合場所までは大体40分、集会時間が21時30分だから、そこそこ良い時間だ。

俺は自分の回りに散らばった工具を乱雑に工具箱に仕舞い、出発の準備を整える。

「今日も長い夜になりそうだ……」


土曜の夜

俺らは夜空を舞う

漆黒の天使になる……


例の場所に着くと、改造されたバイク特有の排気音とそれに加えガソリン臭さと煙たさと人の話し声が混じった言うなれば、ここだけ治安という言葉が息をしていないようなそんな感じの状態になっていた。

そんななか、聞き覚えのある、やかましい声が聞こえた。

「おお、しゅーちゃんじゃないけ、ひっさしぶりやなぉ!」

コイツはりょー、俺と一緒にこの辺りで走ってるヤツだ、因みにしゅーとは俺のことだ、ここではみんな本名では呼ばない、理由は自分でもわからないが、まぁ、知る必要も無いからな 。

俺はりょーに答えた。

「おう、最近仕事が忙しくて来れなかったんだ、連絡しなくて悪かったな。」

「ハッ、しゅーちゃんから連絡が無いのはいつものことだから気にしとらんて、それに、知らせが無いっちゅーことは、無事に生きとるってことじゃけ、それで良いのよ。」

こんな感じでりょーと暫く談笑していると、1台のバイクが俺らの横に着け、話しかけて来た。

「おい! しゅーちゃん! りょー!」

コイツはカイ、りょーと同じくここいらで一緒に走ってるヤツだ。

「お、カイ! おまんも久しぶりやな!」

時計は21時50分を指していた。

「つか、20分遅れじゃけ! 時間くらい守ってくれんと困るわぁ……」

カイはヘルメットを外し、頭をかきながら、

「あぁ、途中の24のスタンドが混んでてなぁかなか給油出来なかったんやわ、許してくれ。」

俺もフォローに入る。

「まぁまぁ、俺もカイもとりあえず無事に揃ったからな、気にしなくても良いだろ。」

りょーは俺のフォローを聞くとすぐに機嫌を直した。

「せやな……つか、今日はどこ走りたいけ? 久々だから遠出でもええよ。」

最初に答えたのはカイだった。

「俺は直したコイツの調子が見たいからな、464号を鎌ヶ谷まで抜けて、そっからUターンして成田に行くってのはどうよ? しゅーも久々やから感覚取り戻すには良いルートだと思うが、どうだ?」

カイは自分の愛車、ホーネットと俺の愛車GPXを指差しながら俺に同意を求めた。

「そうだな、俺もとりあえず高速域の感覚を取り戻したいからそのルートで賛成だ。」

「せやな、二人の復活が今回のメインじゃ、それで行こうや!」

りょーはニヤリと笑って、愛車のバンディットのエンジンを掛け、出発の準備を始めた。

俺とカイはそれを見て準備を始める。

久しぶりのこの高揚感、俺はこの夜に何かを期待しているのかもしれない……



漆黒の天使達は

夜空へと舞い上がる……

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八咫烏 陽色 @youshi__tatarou

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