第37話 愛と友情に背を向けて ~Before 10 Days OR One Person's Life~
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「すまない。安全保障理事会は
通信画面に映るアミークスが頭を下げる。
「俺のことはいい。最後まで月の面倒をみるさ」
苦笑いしながらアミークスに話しかける。
月の開発計画は俺が提案したことだ。
プラトンクレーター近隣に設置した仮説基地を恒久化し、資源採掘の拠点とする。
採掘した資源を元に、都市を建設していき、月に新たな生存圏を建設する。
地上と違い、恐れる災害は流星群だけだ。
時間をかければ、連合国を構成する各国を上回る拠点になるはずだった。
「だが、月の開発規模縮小だけなら未だしも、地球と月の往来を理事会の認可制するのは、事実上の追放だ。今や
「理事会は評議会の影響下にある月に、戦力が集中するのを防ぐ腹か」
「
「月への移住を希望する
頷くアミークスを見ながら、思考を巡らす。
度重なる災害と戦災で故郷と家族を失い、身一つで生きてきた。
救いの手を差し伸べなかった連合の各国政府に対する反発心は強い。
それが理事会に警戒心を抱かせた。
理事国の狙いは、月の開発計画縮小を防げなかった評議会に非難を集め、影響力を下げることだろう。
もしかしたら、月面開発計画が承認された当初から仕組まれていた謀略の可能性もある。
梯子を外された状態だ。
このまま放置すれば、
「密約が機能する限り、評議会と理事国は協力関係を維持できる」
「
「厄介ごとを押し付けられた気がするが、月が前例となる」
どの国もエネルギーをホシクズに依存している。
たとえ騒乱状態になっても、
兵器転用する場合もしかり。
冷戦時代の相互確証破壊と同じだ。
度重なる災害で、化石資源の採掘施設が倒壊し続ける中、ホシクズは唯一のエネルギー資源となりつつある。
ホシクズはウラン鉱石と同価であり、紛争の原因となっていた。
その状態は、度重なる流星群の迎撃態勢の構築を遅延させる。
各国の軍備増強を抑制し、早急に迎撃態勢を確立させる為、連合国は、加盟国に「
当然、拒んだ国の政府は倒された。
その先兵が俺達だ。
加盟国の
ロシア革命を成功させたトロツキーが言ったように、国家権力の中枢は政治・官僚機構にあるわけではなく、国家の神経組織、すなわちインフラにある。
インフラのエネルギー源をホシクズに依存していた国ほど、簡単に政権は瓦解していった。
見返りに、手にしたのが
理事国を含め、どの国でも人体実験まがいの研究開発は過去のものとなった。
「次の流星群まで十年以上ある。戦時から平時に移行する理事会の方針は正しい」
「俺達は、いや、お前はその平和を作った功労者だろう」
「俺が表に留まる限り、担ぎ出そうとする奴は後を絶たない。それが理事国に口実を与えることになる。血の気が多い奴は月で引き取る」
「オキナ」
「もう闘争でなく、共存に転換する時期だ。評議会を潰させるわけにいかない。承認する為の交換条件にすれば、理事会も拒否しないさ」
「セレーネはまだ地球にいる。お前は、それでいいのか」
「理事国の閣僚の娘を月に連れてくるわけにいかんだろう。人質と思われたらどうする」
「はぐらかすな」
「俺には過ぎた女性だ。お前の下で活躍させてやってくれ」
戦いの時代が終わる。
だが、生き方を変えられるとは思えない。
生き方を変えるのが怖い。
評議会の大義なんて、どうでもいい。
選択肢なんてなかった。
理事国の思惑に沿って行動する以外の道はなかった。
アミークスのような理想を持っていない。
セレーネのような他者への愛情を持てなかった。
生きるために、戦ってきた。
俺はお前達とは違う。
他人に好かれるより、他人に恐れられる方が性に合っている。
これ以上、お前達と一緒に居たら、自分の醜さに耐えられない。
人の好意が怖い。
俺は日陰で、お前達は正道を歩めばいい。
共存の時代になれば、日陰者は危険視される。
評議会の処刑人に、彼女の笑顔は似合わない。
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