第36話 優しい君は ~Before 10 Days OR One Person's Life~

 ~第二次小惑星群セカンドインパクトの迎撃から七年後~

 ~月詠つくよみオキナ、二十五歳~


「堅物のあなたが参加するとは、意外です」


 連合本部で開催された第三次小惑星迎撃作戦の送迎会。

 会場となった式典ホールの壁際の席で一人、サンドイッチを食べいたら声をかけられた。


 声の主を探すと、乳白色の肌に黒い長髪を一束にまとめた女性が近づいてくるのが見えた


「セレーネ三等管理官」

「ご昇進、おめでとうございます。月詠つくよみ一等管理官。最も、あなたの功績を考えれば遅いくらいです」

「本意ではないが、交流は必要だ」


 挨拶を交わすと、彼女は隣の席に座った。

 初めて出会った時から、背も伸びた。

 漆黒の輝きを反射する長髪には、生気が宿っている。


 かつてのか弱い少女の面影はない。

 今は聡明な頭脳で、戦場と社交場を駆け巡る一端の操縦者オペレーター

 

「アミークス管理官にも昇進のお祝いを申し上げたかったのですが、今日はいらしてないのでしょうか」

「奴は帰宅した。パーティーに出席すると奥方の機嫌が悪くなるらしい」

「あらあら」


 口元を隠しながらセレーネはクスクスと笑う。

 そんな彼女を見ながらサンドイッチを頬張った。


「それで月詠つくよも管理官は十分、交流されたのですか」

「交流が必要な者は君みたいに自分からやってくる。それに私が行くと、緊張する者が多い」

「それで隅の席で石像になっているわけですか。処刑人の異名も考え物ですね」

「事実だからな。人殺し呼ばわりされるより、マシと言うものだ」


 セレーネが呆れた表情をこちらに向ける。

 口の中でパンに挟まれたハムとレタスを噛み潰しながら反論を考える。

 ゴクリと飲み込んでから口を開く。


「そういう君も交流してきたらどうだ」

「生憎、歓談したい相手とは話終えたところでして。退出するにはまだ早いので、こちらにお邪魔しました」

「…そうか」


 新しいサンドイッチを取ろうとして皿が空になっていることに気づく。

 食べ過ぎたかと思ったが、よく考えればこれが今日、初めて食べる食事だった。


「よく召し上がれていますが、お好きなんですか。サンドイッチ?」

「特別好んでいるわけないが、よく食べているか?」

「よくデスクの上に置いてあります」

「なら好みなんだろ」

「今度、作ってきましょうか」


 言われた事の意味が理解できず、彼女の顔を凝視した。

 晴天のようなにこやかなさの中に、どこか照れくささがある。

 どうしてか、それを断るのがすごく気の毒に思えた。


「得意なんですよ。サンドイッチ」

「そうか。なら頼むとしよう」

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