Before 10 Days

第30話 後悔を噛みしめて ~Before 10 Days~


 ミラ・サンフィールドはプラトン採掘基地のドッグに係留されている試作方舟号を見上げた。


 カグヤと一緒にシートで塞いだ船体の穴はない。

 既に船体の修理は完了した。

 今は物資の搬入作業をしつつ、地球との通信を試みている最中だ。


 カグヤが地球行を表明してから、もうすぐ二か月になる。

 船の準備は整いつつある。

 

 月に来てからは予想外の出来事の連続だった。


 最初にたどり着いたルナシティは廃墟になっており、心痛な気持ちになった。

 その矢先、プラトン採掘基地に、僅かなエネルギー反応を検知した。

 

 僅かだが、少数の人間が生活できるエネルギー量だ。

 ルナシティの周囲に幾つも漂っている、破壊された戦闘衛星に残された絞り粕のような、反応ではない。

 

 すぐに採掘基地に向かおうと、方舟号を方向転換させた。

 その直後、進行方向にあった戦闘衛星の進路が変わった。


 衝突コースだった。

 近すぎて回避は間に合わない。


 直ぐに戦闘衛星の制御システムに通信を接続して、推進装置の停止させた。

 しかし、戦闘衛星のいきおいは止まらず、そのまま方舟号の横腹に衝突した。 


 停止命令を送った時、制御システムの人工知能から要請があった。

 

 「我、通信機能の一部が故障中。戦況情報の更新を求む」


 方舟号の航行制御システムが自動的に、情報を送信した。

 探索のため、月のシステムに自動接続する設定にしていたせいだ。

 

 「ヘルゼーエン、任務完了」


 最後に単語を幾つか送り付けると、人工知能は機能を停止した。

 エネルギー反応もない。

 完全に沈黙している。


 即席で作成されたであろう戦闘衛星の探知装置は故障していた。

 残っていたのは近視界カメラのみ。

 それもレンズにひびが入り、はっきりと像が結ばない状態だ。


 それでも、この衛星は待ち続けた。

 都市を守る使命を果たすために。


 十秒程度の間に起こった異常事態に、思わずあっけにとられた。

 それがまずかった。


 落下の警告音で我に返り、船の姿勢を必死にコントロールしようとした。

 姿勢を戻した時は、月面は目の前で、そのまま不時着するしかなかった。


 それからカグヤに救助されるまでの間、死を覚悟した。


 人生で死を覚悟したのは二度目だ。


 思い返せば過去の前回も、月が関わっている。


 自分と月との最初の縁となった出来事。


 その時も自分は救助される側だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る