第25話 学科試験 ~Before 60 Days~

 学科試験の部屋は無人だった。

 部屋の中央に机と椅子が一つずつ。

 席に座ると、空間モニターが机上に現れる。

 

 「モニターにタッチすると試験を開始します。準備が出来たらモニターをタッチしてください」


 候補生が好きなタイミングで試験を始めるらしい。

 注意文を読み終えた私は直ぐに、画面にタッチした。


 教養試験の範囲は言語、数学、歴史、熱量エネルギー学、倫理の基本教科のみ。

 五科目全てを合わせて、試験時間は三時間だけだ。

 テキパキ解答していかなければ、時間がなくなる。


 簡単に解ける問題から始めよう。


 倫理は規則の内容を答えるだけだ。

 暗記していれば直ぐに解答できる。

 

 言語は共通語の文法と読解の問題だ。

 自動翻訳ソフトが普及しているので、会話までは試験問題に出されない。

 公式文章が読める能力があるかの確認だ。時間はかからない。


 歴史は、流星群第一波ファーストインパクトから第三波サードインパクトまでの約半世紀が試験範囲だ。

 操縦者オペレーターの登場から評議会の成立と活躍を中心に問題が組まれている。

 オキナの名前が出ないのは、意図的なのだろう。


 熱量エネルギー学は操縦者オペレーターの基礎だ。

 能力の傾向を含む熱量エネルギーの扱いから、健康管理まで。ホシクズ熱量エネルギーに関係することは、何でも熱量エネルギー学とされる。


 最も試験範囲が広く、予想外の問題が多い。

 だけど、けっして解けない問題ではない。

 こちらの知的水準より、少し上の問題が設定されている。


 まるで頭の中を見透みすかされているようだ。


 数学の計算問題で、思わず手を止めてしまった。

 問題は、施設の補強に使用する資材の量を計算する内容だった。


 昔、間違えた計算を元に、補給廠ほきゅうしょうに補充申請を出して、眼鏡の担当官からお小言を貰った内容と同じではないだろうか。


 あの担当官を苦手と思うようになったのも、その時からだ。


 解答を記入し、次の問題に移る。

 そこで、また手が止まった。

 また、過去にお小言を貰った内容だ。


 結局、過去に一度、失敗したことを全部、問題にしてあった。

 やっぱり、あの担当官は苦手だ。

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