第23話 ルナシティ ~Before 61 Days~

 ルナシティはドーム型と地下型を組み合わせた複合構造都市ふくごうこうぞうとしだ。

 ドームで覆われた表層には熱量エネルギー波による防御場フィールド発生装置や熱量エネルギー放射装置といった防衛施設、港などの大型施設を備える。    

 地下に居住区や動力炉といった重要施設を有する。


 最大収容人口は約十万人。

 防御場フィールド発生装置に囲まれたドームの姿は古代の城塞都市じょうさいとし彷彿ほうふつさせる光景だ。


「はあ、はあ」


 荒い呼吸を整えながら月詠つくよみカグヤは目の前の城塞じょうさいを見上げた。

 自分が生まれるはるかか前から、ここに建っているであろう城塞じょうさいは、彼方此方あちこちに亀裂が走っていた。


 小惑星が直撃したのだろうか、城壁じょうさいそのものが崩れている箇所がある。

 ドームに至っては半分しか存在していない。


 宇宙艇を駆ってドームの内側に入る。

 床が抜け下層まで続く大穴があった。

 宇宙船の整備に使用するクレーンが倒壊しドックを塞いでいる。

 

 作業用の宇宙艇は炭素繊維たんそせんいの建材によって串刺しにされていた。

 人の気配はなく、表層の施設は稼働していないことは明白だ。

 

 地下の施設はどうなっているだろうか。

 宇宙艇を着底させて、ルナシティに降り立つ。

 多量のデブリが漂っているため、宇宙艇でドーム内を移動するのか無理だ。


 活動服に熱量エネルギーを供給して、生み出した推力を使いながら中央にある建物に向かう。

 半壊しているが元はドームで一番大きな建物だったはずだ。


 おそらくドームの支柱しちゅうを兼ねた管理棟のような施設ではないだろうか。

 もしそうなら、地下への昇降機エレベーターがあるかもしれない。


 崩れた壁から顔を出して、棟の中の様子をうかがう。

 エントランスのようなホールの奥に、大型の扉が複数並んでいる。

 

 昇降機エレベーターの扉だ。

 跳躍して扉の前まで飛んでいく。

 扉に手を当てると振動していることに気が付いた。

 

 昇降機エレベーターが動いている。

 誰かが上がってくる。

 鉢合わせしたら、オキナに叱られる。

 

 慌てて近くの瓦礫がれきの陰に隠れた。

 そーと、扉の様子をうかがう。


 呼吸を五回繰り返したところで、扉が開いた。


 昇降機エレベーターの中には自走式の貨物搬送機かもつはんそうドローンが一台あった。

 見覚えのある物資運搬用のコンテナを牽引している。

 搬送車はんそうドローン昇降機エレベーターを出て、どこかに向かい始めた。


 「あれは」


 隠れながら搬送車はんそうドローンの後を追う。

 搬送車はんそうドローンはデブリが少ない場所を通っていた。

 何度も往復しているのだろう。


 搬送車はんそうドローンはドックに向かって移動している。

 その先に小型の宇宙船が一隻。

 格納庫が開いた状態で係留されている。


 いつも採掘基地に資材や物資を運んでくる無人船だ。

 搬送車はんそうドローンは無人船に乗り込んでいった。

 戻ってきた時にコンテナはなかった。


 搬送車はんそうドローンが十分、離れてから無人船に乗り込む。

 格納庫の中にはコンテナは一つ。

 コンテナを開けて中に入っている物資を調べる。


「昨日、連絡があった物資ばかりだ」


 これは採掘基地への補給物資だ。

 つまり地下で物資が生産されている。


 自動工場の可能性もあるが、誰かが管理しているはずだ。

 ミラさんは表層しか見ていないんだ。


「オキナが正しかった」


 胸を撫でおろす。

 杞憂きゆうだった。


「帰ろう」


 帰ってピーターのご飯を食べよう。

 コンテナの扉を閉じて、後ろを振り返る。


 そこには去ったはずの搬送車はんそうドローンがいた。

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