Before 61 Days

第21話 真実と嘘の距離 ~Before 61 Days~

 起床アラームの音が部屋に響く。

 ゆっくり腕を伸ばしスイッチを押してアラームを止める。

 一睡もできないまま朝になってしまった。


 昨日、盗み聞きしてしまったオキナの言葉が頭から離れない。

 オキナは今まで、一緒に暮らしていて、信頼する家族だ。

 隠していた一面を見たからといって、その事実は揺るがない。


 でも、オキナの真意がわからない。

 私をルナシティに送るのは、オキナの計画の一環で、ルナシティの住民は肉体を持たない。

 それでは私を黄泉よみの国に送ろうとしているようだ。


 私だけではなく、ミラさんもルナシティに送るつもりのようだ。

 何故、オキナはそんなことをするのか。

 一晩考えたが答えは出ない。


 考えても仕方がないことかもしれない。

 だけど、このまま放置しておくこともできない。

 

 オキナに問いただすべきだろうか。

 はぐらかされて肝心な事は教えてくれないだろう。


 「経験則に基づく判断ではなく、対象の真の実在を見つめなければならない」

 

 オキナが教えてくれた言葉が頭に浮かぶ。

 物事を判断する時、過去の経験に頼ってはいけないという意味だ。


 だけど、オキナから教わった考えだ。

 何をどうしてもオキナのてのひらにいる感じがする。

 結局、自分のものと思っている知識も他人由来のものでしかないのだ。


「どうしたらいいんだろう」

 

 答えはでない。

 時間だけが過ぎていく。


 ミラさんと話をしよう。

 

 ベッドから降りて机の側に行く。

 机の上に放り出された端末を手に取って操作する。

 通話履歴からミラさんの端末へ通話する。

 

 しかし、何時まで経っても通信が繋がらない。

 ミラさんの端末が特定できていない。

 基地全体の熱量エネルギー波の通りが悪くなっている。


 オキナの仕業だ。

 私とミラさんを接触させないようにしている。

 部屋の呼び出し音が鳴る。


「カグヤ、起きているか」

 

 オキナの声だ。

 慌てて端末を引き出しに仕舞う。

 

「な、なにかな」

 

 コミュニケーターに向かって返事をする。

 

「今日からしばらく、採掘場に籠る。その前に顔を見ておこうと思ってな」

 

 計画の準備を進めるつもりだ。

 今、オキナと顔を合わせるのは気まずい。


「ご、ごめんなさい。着替えている最中だから」

「そうか。何かあったら通信しなさい」

「わかった」


 コミュニケーターの通話を切る。

 大きなため息をはいて椅子に座り込む。


 胸が苦しい。

 こんな感情初めてだ。

 自分の行いを内省ないせいする。


「こんな、うろたえるのは嫌だ」


 自分自身の弱さに腹が立つ。

 焦燥感で心が荒んでいく。


 こんな感情を持ったまま、オキナと生活していくのは無理だ。

 もっと無理なのは、オキナに疑念を持ったまま別れることだ。


「確かめよう」


 脳内イメージに管理システムのスケジュールを表示する。

 スケジュールに書き込まれていた今日の予定を消去する。

 代わりに「補給船受け入れのための港の状態確認」と記入する。


 生体端末を使ってピーターを呼び出す。


「ピーター、ルナシティから船が来るから、今日はドックの状況確認をします。忙しいからお昼は無しにします」

「了解」


 いつも通りピーターは軽快に答えた。

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