第20話 真実という果実 ~Before 62 Days~

 端末を見つめたまま、月詠つくよみカグヤは呆然ぼうぜんとしていた。


 ちょっとした思いつきだった。

 予習を初めようとして、ミラさんに一言、断りを入れた方がよかった方が良い気がした。


 やることができたので、今日はお話しできません。

 明日、お話しましょう。


 そう言ってから予習をしようと思い、通信端末を使った。

 だが、ミラさんは応答しなかった。


 そこで気が付いた。

 電波なり熱量エネルギー波が、相手の端末に繋がっているなら、向こうの端末を操作できるのでないだろうか。


 体内に埋め込んでいる生体端末は、脳に負荷がかかるので、余計な負荷や接続があると、すぐに気が付く。

 だが、機械の端末ならその心配はない。


 呼び出し音が鳴る端末を凝視しながら、熱量エネルギーの流れを読み取る。

 脳内イメージで熱量エネルギーの流れを表示させ、ゆっくり熱量エネルギーの供給量を増やしていく。


 相手の端末の受信を熱量エネルギーで飽和させ、制御系への経路を探す。

 制御系への接続を確立して、通話機能を起動するよう命令を下す。


 うまくいった。私って天才。

 鼻を高くして、届いた音声データを自分の通信端末のスピーカーに流す。


「地球が今更、月に何用なにようか」


 オキナの野太い声が流れてきた。

 驚き、戸惑っているとミラさんの声も流れてきた。

 二人で話をしている最中だったようだ。


「これ、勝手に聞いていたら、怒られるやつかな」


 思い付きをやったら大変なことになったぞ。

 でも、話の内容がすごい気になる。

 地球の情勢が大変なことになっている。


 その上、ミラさんの目的は、ホシクズを回収して地球に持って帰ることだった。

 驚愕の事実が次々と明らかになりにつれて、二人の会話に聞き入った。

 それにオキナの計画に私は心当たりがある。


 オキナが時々、採掘場の奥に籠る。

 何をしているのか聞いても「機密事項だ」と言って教えてくれない。

 ピーターも「知らない、機密事項」と言うありさまだ。


 だが、私は知っている。

 オキナが採掘場の奥に籠る時、深夜にピーターが手伝いに行っていることを。

 前に途中まで後をつけたから間違いない。

 

 その時はセキュリティに阻まれて、真相を解き明かすことはできなかった。

 私だけ一人、除け者にしているのが前から気に入らなかったが、これで真相の一端が知ることができる。

 

 じっくり、耳を傾ける。

 だが、ミラさん同様、私も理解ができなかった。

 月にいる人間は三人だけで、ルナシティはもうない。

 

 では先ほど、通信を送ってくれた補給廠ほきゅうしょうの人は死んでいるのか。

 ルナシティから送られてくるという資材は、どこから来たものだ。

 

 背筋が急速に寒くなるのを感じて、通信を切った。

 そのまま勢いに任せてベッドに飛び込む。

 自分が信じていたものが、崩れていくのを感じる。

 

 「先にカグヤをルナシティに送らねばならない。」

 

 オキナの言葉が脳内で繰り返し流れる。

 それはつまり、死ぬということなのだろうか。

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