Before 62 Days

第15話 誘惑 ~Before 62 Days~

身だしなみを整えながら、鏡に映った自分の顔を見つめる。

昨夜、ライブラリーにあった前世紀の映像作品を視聴した。

登場する俳優は、ミラさんと同じ様な美形ばっかりだ。


私の容姿はやっぱり人より劣っているのだろうか。

人相診断ソフトに「気品のある容貌ようぼう」と言われたが、自分では童顔と思う。

ルナシティや地球の人は、私の顔にどんな印象を持つのだろうか。


我ながら妙なことを気にしているなと思う。

両手で頬を叩いて意識を切り替える。


昨日、オキナと話をした後、部屋に戻って作業を進めた。

疑問が解消したおかげか、作業は随分とはかどった。


書類は一通り完成。

適性試験の予習も十分の一位は進んだ。

今日も予定を終わらせて、予習の続きをしよう。


さあて、お仕事しましょう。

脳内イメージに管理システムのカレンダーを表示して、今日の予定を確認する。


今日は管理システムのログを精査、物資の在庫確認、配水網の点検、動力炉への熱量エネルギー供給とやることが多い。

今は滞在者もいるから、物資とエネルギーの消費速度にも注意しないといけない。


鏡の一点が点滅している。

机の上に置いてある携帯端末のランプが点滅しているようだ。

一昨日、ミラさんからもらった携帯端末だ。


顔を両手で挟んだまま、振り向く。

端末が振動を始め、机と衝突してカタカタと鳴なっている。

慌てて、端末を掴かみ液晶を覗くと「着信」と表示されている。


止め方がわからない。

適当に、液晶に浮かぶ表示を指先で触れる。


「あ、繋がった。カグヤさん、聞こえる?」

「えっとカグヤです。ミラさんですか」

「正解です」

「えっと、何かありましたか」


端末を顔の正面に持ってきて話しかける。

生体端末を使わない通信は、初体験だ。

こんな使い方でいいのだろうか。


「検査結果が出るまで数日、隔離されることになりました。時間を持て余してしまうので、カグヤさんとお話できないかな、と思って通信してみました」

「ふふ、嬉しいです」


 頬が緩むのを自覚しながら返事をした。

 嬉しさで熱量エネルギーが湧いてきているが、今は我慢しなければオキナに叱られてしまう。


「でも、ごめんなさい。今日は仕事がありまして、後でもいいですか」

「あら、タイミングが悪かったわね。お仕事はいつ頃、終わるのかしら」

「夕食の時間までかかります」

「そう。では楽しみは夜までとっておきましょう。その端末の履歴情報から私の端末に通信できます。都合がよくなったら連絡してください」

「有難うございます」

「それでは、また後で」


ミラさんの声が途絶えた。

地球の話が聞けるかな。

楽しみが増えた。


意気揚々と私は部屋を出た。

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