Before 64 Days~前半~
第6話 おんぼろの我が家 ~Before 64 Days~
単調な機械音が聴覚に響く。
腕を伸ばして、枕元のスイッチを押すが、アラームは止まらない。
違うスイッチを押すが、機械音はなり続ける。
面倒になって、手のひらを押しけると、機械音は鳴りやんだ。
まとめて押したスイッチの一つが、アラームを停止させたらしい。
寝ぼけた頭で思考しながら、月詠カグヤは布団から顔を出した。
昨夜、ピーター特製のハヤシメシを堪能した私は、部屋に戻って就寝した。
自分が思っていた以上に、疲労していたのか、まだ睡眠が足りていない。
再び、夢の中に戻りたい誘惑にかられる。
だが、朝からピーターに布団をはぎ取られる光景が目に浮かび、諦めてベッドを出る。
目覚めにシャワーを浴びようと思い、部屋を出てふらふら通路を歩いて、シャワールームに入る。
身に着けている衣類を畳んで科学樹脂の籠に入れる。
個室に入ると、操作パネルに触れて、
天井から落ちてくる熱湯を頭頂部から被る
体を脱力させながら、脳を覚醒させていく。
採掘基地で発掘した氷塊のおかげで、水資源は豊富に使用できる。
水から酸素を生み出す高圧水電解システムを維持、管理するのも、この基地の役目だ。
生み出された酸素は無人船で月面の各拠点に供給されている。
水の利は、月に入植した当初から、現在までこの基地が存続できた要因の一つだろう。
ただ、シャワールームの「お湯を使いたければ自分で
配水網に小規模の発電機を組み込んでいるのに侘しい。
ぼんやりと熱湯に身を任せていると、熱湯の出が減っていることに気が付いた。
操作パネルを見るが、水量の設定に変化はない。
首をかしげている不思議に思っていると、湯量はどんどん減っていき、ポタポタと雫が落ちるだけになってしまった。
故障したのかと思って操作パネルに触れようとした時、生体端末に通信が入った。
「カグヤ、大変、大変」
「ピーター、どうしたの」
慌てた様子のピーターが脳内イメージに現れる。現実のピーターではなく、脳内イメージ用にデフォルメされたピーターだ。
「管理システム、配水網、異常」
ピーターが居住区の管理システムを見るように促してくる。
促された通り、管理システムを見ると、居住区に供給される水が止まっていると異常表示が出ていた。
貯水タンクから居住区に向かって伸びる配水管の監視センサーから、信号が途絶えている。
重力を利用して、居住区の各地に水を行き渡らせるために、地表に給水管を上げている経由部分だ。
他の施設より頑丈な箇所なので簡単には破損しないはずだが、老朽化したパイプが破損したのだろうか。
状況を推察しながら、シャワールームから出てタオルで体を拭く。
「オキナには知らせた」
「オキナ、起きない」
「もう、年寄は」
責任者に押し付けようとするが失敗した。現実は、映像作品みたいにはいかないな、と溜息をこぼす。
節水すれば非常用の貯水タンクで一週間は生活できる。
オキナを起こす前に、様子だけでも見に行こう。
方針を決めた私は、下着の上からズボンとシャツを着込みながら、ピーターに呼びかけた。
「外部調査を行います。オキナが目覚めたら知らせて。活動予定は二時間」
「了解」
ピーターから返事を聞きながら、部屋を出て、通路を駆け出す。
さあ、自分の家を修繕しに行こう。
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