第34話 私を揺らさないで下さいぃ
王師の男に飛刀を投げられると同時に。
妲己は防護の宝具を用い。
布一切れで。
飛刀の全てを受け止める。
「おぉ、びっくりしました」
妲己がそう言うと。
布から百を超える飛刀が。
地面へと零れ落ちる。
「…………」
王師の男が妲己を睨んでいると。
推哆が戻ってくる。
「遅いと思ったら。まだ話してたの? 出陣の準備はとっくに終わってるのよ。さっさと出向かないと、色々と予定が狂うの。さぁ、王様、悩んでいる時間はないわ。御出陣を」
「……ん? 余は王なのか?」
「あら、面白い冗談を言えるようになったのね」
関龍逢は苦い顔のまま言う。
「いや、冗談じゃねぇんだが」
「関龍逢まで、こんな下らない茶番に乗るつもりかしら」
「…………」
推哆は周りの雰囲気から。
ただならぬ雰囲気を察し。
妲己が視界に入ると。
疑問だった点が。
繋がったのか。
妲己へと駆け寄る。
「ちょっ、アンタ。また、何か余計なことをしたの! 私が離れてから半刻で一体なにしたの!」
「ゆ、揺さぶらないで下さい。妲己ちゃんは、記憶を失った王様を直す為。回転珠で治療しようとしただけです」
「壊れたテレビじゃないんだから。叩いて治るわけないでしょうが!」
「叩いてません。投げています」
「黙らっしゃい!」
「ほぇぇぇ。揺らさないで下さい」
妲己は推哆に激しく揺さぶられ。
気を失うように。
膝から地面に落ちる。
推哆は頭を乱雑に掻いてから。
玉座へと近づく。
「桀王様。少しばかり治癒します。私の指をご覧下さい」
「…………」
推哆は催眠誘導のように。
指で視線を動かすと。
人差し指から魔方陣が浮かび上がり。
桀王は緩やかに項垂れる。
「……これで、一先ず大丈夫かしらね」
「一体何をしたのだ」
「治療よ、治療。……多少は記憶が入り乱れるでしょうが。まぁ、次第に定まってくるわ。関龍逢、桀王を運ぶのを手伝いなさい。事態は一刻を争うのよ」
関龍逢と推哆は王の腕を肩に掛け。
王宮の外へと出向く際。
桀王は意識の定まらないまま。
呟くように言う。
「……王都を、夏を託すぞ。調停者よ」
「…………」
碧は言葉を発さずに頷くと。
桀王は再び意識を失った。
桀王が王宮から退出すると。
王師の男は緩やかな足取りで。
碧に近づく。
「よもや、二度ならず、三度までも王を傷つけるとはな。……三度、処刑しても足りぬ。此の罪を、どう晴らすつもりだ調停者よ」
「はっ、王都を守り切れば。お釣りが出るぐれぇの功績に変わるだろうが」
王師の男は自嘲紛いに笑うと。
緩やかに口を開く。
「精々、死力を尽くして、この國を守ることだ。……王都を守り切れば。先の罪、私からも目を瞑ってやろう」
王師の男がそう言うと。
青年を一瞥して続ける。
「昆吾伯が、王都へと攻めてくるまで。少なくとも十日はある。其れまでに、もう少し鍛え直しておくことだ。今のままだと、足手まといになるからな」
「其れは、俺に言ってんのか」
「お前以外に誰がいる。本来なら、加護を持ちし者は一騎当千の力を得るとされている。其れなのに、お前はどうだ。幾ら、我ら、王師が魔術を会得しているとは言え。あそこまで一方的に嬲られるなぞ、本来なら有り得ぬ事だ」
「……っ」
「加護の力をもっと引き出せるように、この十日間。死ぬ気で努力しろ。さすれば、もう少しばかり、見えるようになるだろう」
王師はそう言って。
青年の肩に手を触れると。
王室から立ち去った。
王室には。
三人が残され。
青年は唇を噛みしめて言う。
「なぁ、今更なことを聞くんだが。どうして、何の才も力もねぇ俺に、こんな加護を与えたんだ」
碧は溜息を吐くと。
面倒そうに言う。
「前に言っただろうが、お前になら。託しても良いとな」
「だから、何故、そう思ったのかを聞いているんだよ」
「…………」
碧は頭を乱雑に掻き。
溜息交じりに言う。
「お前が死ぬ間際、何言ったか、おぼえってか?」
「……いいや」
「かあさん。って言ったんだよ。余りにも寂しそうに言うんでな。此処で、一人で死ぬのは哀れだと感じて助けたんだ。それ以上も、それ以下も理由はねぇよ」
「…………」
「えっ、詐欺師さん。そんな理由で助けたのですか。てっきり、突っ込み役が不足していたから助けたと思ってましたのですけど」
「そんな理由で助ける訳ねぇだろうが。確かに、ツッコミ役不在だったけど」
碧が突っ込み紛いに言うと。
青年は堰を切ったように。
笑い始める。
「はっはははっはは」
「どうしたのですか。ツンデレさん? 壊れちゃいました? 回転珠、必要ですか」
「記憶を失わせてどうすんだよ」
碧が冷ややかに言うと。
青年は自嘲紛いに言い放つ。
「……切り捨てたつもりだったんだけどな。また、心のどっかで切り捨てられてなかったのか」
「切り捨てる必要なんてねぇよ。大事だから、心の奥底に置いていたんだろう」
「…………」
青年は自らの手の平を見つめて言う。
「……なぁ。妲己。俺は加護をまともにつかえてねぇんだろう。どうしたら、上手く扱えるようになる」
「簡単ですよ。修行すれば良いのです。じゃあ、明日から修行ですね」
妲己の提案によって。
青年は修行を行うことになる。
果たして。
青年は時代の加護を。
引き出せることが出来るのか。
次回。
修行編です。
青年、激しく後悔する。
碧、巻き込まれる。
妲己ちゃん、特製ピラフ紛失する。
の三本でお送りします。
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詐欺師ですが、不幸のヒロインが足を引っ張るせいで時代が進みません。 ~これより大陸を調停します 夏王朝編~ 橘風儀 @huugi
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