第33話 医療の発展には犠牲がつきものみたいですよ

 桀王が妲己の回転珠を。

 頭部で受けたことにより。

 気を失っており



 王師の男が殺気紛いに。

 妲己に近くと。

 関龍逢が急いた足取りで現れる。



「出陣の準備は整ったぞ……って、桀王!」



 関龍逢は玉座に駆け寄り。

 桀王を揺らす。



「……ど、どうしたのだ」



「あんたこそどうしたんだ。頭にこぶが出来てんじゃねぇか」



 王師の男が妲己を睨みながら言う。



「この女が。王の暗殺未遂を行いました」



「じ、事故です」



 王師の男は冷たく言い放つ。



「王を傷つけた者は何人であろうが、処刑である。……大人しく、其の首、夏の社稷へ捧げよ」



「ひっ、目が本気です。詐欺師さん、お得意の口先八丁で庇って下さい」



「……なぁ、ツンデレ。これから二人で時代を変えなきゃなんねぇみたいだな。色々と大変になるな」



「大丈夫だろう。っうか、大丈夫な要素しかねぇだろう」



「はっ。わかってんじゃねぇか」



「「はっはははは」」



「ナチュラルに見捨てられました!」



 妲己があわあわしていると。

 思いだしたように言う。



「ま、待って下さい。仮面の人。弁明だけさせて下さい」



「如何なる言葉を並べ立てようが、貴女の処刑は決まってますよ」



「……あの二人、王を黄河に沈めようとしてました。妲己ちゃん、この目で見てました。其れは、其処に突っ立てる。関? 広東料理さんが証明してくれます」



「関龍逢だ。……っ、まぁ。確かに、沈めようとしていたな」



「はぁ?」



 仮面の男が素の声を漏らし。

 剣を握り締めたまま。

 関龍逢に詰め寄る。



「王を、王を暗殺未遂した者を見逃すとはどういうつもりですか。関龍逢、弁明を、弁明を一応聞きましょう」



「弁明聞く気ねぇよな。首元に剣当たってんだけど」

「当ててるのです」



「若い女官が、胸を当ててるみたいな軽い感じで言わねぇでくれる。心拍数すげぇ上がってんだけど」



「大丈夫です。返答次第で止まりますから」



「止まる方が不味いんだよ!」


 

 桀王は目の焦点が定まってから。

 口を開く。



「お主ら。余の前で言い争いは止めよ」



「……ですが、王よ」



 仮面の男が王に振り返ると。

 王の目は澄んでおり。

 淡々と言う。



「止めよと言っておるのだ。其の者達は余の客人であるぞ」



「……了承しました」



 王師の男が剣を納刀して。 

 桀王の側に戻ると。

 桀王はゆっくりと口を開く。



「さて、昆吾伯をどう抑えるかについて話をしようか。余は、昆吾伯が信用ならぬ。故に、王都を空にすることも出来ぬ」



 王師の男は首を傾げて。

 から言い放つ。



「王よ。それは、先程、結論が出たのでは」



「何を言っておるのだ。今、この者達が来たばかりであろう。と言うより、何故、関龍逢が此処におるのだ。いつの間に来たのだ?」



「…………」


 

 碧が妲己に言う。



「なぁ、妲己。桀王、なんかおかしくねぇか」



「……ああ、記憶が吹っ飛んだのでしょうね。回転珠がクリーンヒットすると。低確率で記憶が吹っ飛びます。ですので、さっきの会話忘れてますね」



「はぁ! 折角、俺良いこと言ったんだぞ。なら、あれか、俺らが王都を守るって内容も忘れてんのか」



「だ、大丈夫です。治療方法があります。詐欺師さん回転珠を出して下さい」



「出したぞ」



「握り方はこうです。魔球、フォークを投げるような感じで握り締め」



「握り締め」

「治療相手に向けて軽く投げるのです」



「こうだな。妲己ちゃん!」



 回転珠は透明になると。

 高速回転し始め。

 仮面の男が反応する暇も与えず。

 桀王の額に直撃した。



「ごふっ」



「き、貴様ら。一度ならず。いや、二度ならず三度までも」



 王師の男が激高すると。

 妲己は桀王を指さす。



「治療は終わりました。桀王を見て下さい」



「…………」

 


 桀王は澄んだ瞳で皆を見下ろしていた。



「桀、王?」



 王師の男が今までに見せたことのない。

 桀王の雰囲気に驚くと。

 桀王はゆっくりと口を開く。



「……余は、余は」



 桀王は首を傾げて言う。



「一体誰だ?」



「あっ。記憶の全部が飛んだみたいですね。治療失敗です。ドンマイです」

「…………」



 妲己は笑顔を見せて言うと同時に。

 仮面の男が引きつった笑みを浮かべ。



 山のような飛刀が妲己目掛けて。

 放った。



 調停は確実に。

 後退していた。

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