第3話 最終日午後:君も消えるんだね
波が岸に流れてくる音だけが響く。僕たちは砂浜の温かさで眠ってしまっていたらしい。気づくと午後四時を回ったところだった。きらりも今起きたようで、目を擦っている。
ふと周りを見ると、世界の終焉を見ようとしているのか人がまばらに集まっていた。僕らは海に向かって体を向けた。
☆
たくさんの思い出話をしていたら、もう夕方で、空には月が昇っていた。そして、肉眼で見てもわかるほどに速いスピードで移動する星があった。これが隕石だった。近くでその様子を見ていた人たちから小さなどよめきが起こった。
僕らの前で波打つ太平洋に、一つの大きな隕石が落ちてきた。
「もう、終わるんだね。光くん。最後の時を一緒に過ごしてくれて、嬉しかったよ。」
きらりが、ふと思い出したように言う。
「僕も、きらりみたいな可愛い彼女と最後の時を過ごすことができて、嬉しかったし、楽しかったよ。」
僕らはそう言いあって、海を見る。海は青かった。海は水平線の彼方には隕石が落ちて、衝撃波や津波などが迫っているというのに、そんなことは全くないように平気な顔をしていた。そして、二分ほどたっただろうか。水平線の遥か先がオレンジ色に光った。その光は少しずつ、でも確実に大きくなってきた。そして、さらに二分くらいたった頃、光を近くで観に行こうとしていた船が光に飲み込まれた。少し、船員たちの悲鳴が聞こえた。次に、水中なら生き残れると考えたダイバーが飲み込まれ、少しの気泡が浮かんできた…気づくと僕はきらりの手を引いて海とは反対の方向に駆け出していた。少しでも遠くに。もしかしたら手前で止まるかもしれない。そんな奇跡に賭けて。途中でそれを止めたのはきらり自身だった。
「もう、いいよ。私たちは、助からない…」
そんなことは僕もわかっていた。わかっていても、走らずにはいられなかった。
砂浜にいた人たちが悲鳴と共に光に飲み込まれた。そこには足跡以外、残っていなかった。もうすぐ僕たちのところに光が届くというその刹那、きらりが口を開いた。
「ありがとう。大好き。」
その言葉を発し、きらりが僕に抱きついた瞬間、僕らは光に飲み込まれた——
☆
——起きなさい、光。あなたには守らねばならない人がいます。
「お母さん‼︎」
僕が飛び起きると、僕の全身に激痛が走った。その中で見た空は赤かった。地面を見ると、ひび割れて、崩れているアスファルトがあった。
「きらりっ…‼︎」
きらりは僕に抱きついていたから、僕とそこまで離れていないはずだ。這うように歩くと、すぐにきらりを見つけた。きらりにはもうあまり時間は残されていないようだった。
「き、ら、り…」
僕が近くに行くと、きらりは少し動いて、少しだけ目が開いた。
「ひ、かる、く、ん…?」
僕は、なんとか立ち上がり、きらりを抱えて、おぼつかない足でゆっくりと歩いていった。その先には病院があった。だが、僕の体力はそこで限界を迎え、きらりを抱えたまま倒れ込んだ。あと少しで病院だというのに…。そこで僕の意識は途絶えた…
☆
——きらりちゃんを助けなさい。光。
「父、さん?」
気づくと僕の周りには誰もいなかった。
「きらり…!」
きらりを探して這い回ると、少し離れたところにきらりは倒れていた。呼吸を確認すると、きらりはもう息をしていなかった。
「きらり……。ごめん…助けられなくて…」
——でも、僕ももうすぐそっちにいけそうだよ。待っててね。きらり。
その日は洗濯物もよく乾きそうな晴れだった。そんな夕陽に照らされて、最後の生存者だった者が倒れていた。
終
終わり始まるセカイ 能依 小豆 @azukiman
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