第3話

「正常に動いてるよ、この測定器は」


静まった部屋に老婆の枯れたような声が響き渡る。

今まで自分が魔法を使うことが出来ない理由の一つとして魔力がないと思っていたルナからしたら老婆の言っていることを軽々しく信じることは出来なかった。


「せ、正常にって、それ本当なんですか?」

「本当だよ。アンタの魔力量とんでもないね」

「え、えぇ」


衝撃の事実を、ルナは受け止めることが出来ず放心状態になり、立ち尽くしていた。

カルラはそんなルナを背中を優しく叩く。


「魔法を使える可能性が出てきたじゃんか」

「魔法口が壊れてればどの道無理ですけどね」


この会話を聞いていたのか、老婆はルナの手の平を舐め回すように隅々まで触った。初めは老婆の腕を振りほどこうとするが老婆が落ち着きな、というとピタリと動きが止まる。

しばらくすると、老婆は何かが分かったかのようにルナの瞳を見つめた。


「この魔法口じゃ魔法を使うのは無理そうだね。故障してるよ。しかも、修復不可能なくらいにね」

「そうでしたか」


落ち込むルナの背中をカルラは優しく擦った。それが少し気持ちよかったのか目を瞑りながら微笑み、体の揺らす。


病院を出た後は適当に朝食を食べ、町の外へ出る門へ向かい門番に出ることを伝え外に出る。

二人が町の外に出た理由としてはルナの戦闘力を測るということが第一の目的ではあったが、病院に行ったことでルナの気持ちを落ち着かせるという目的が追加された。

門番の目が届かなくなるとルナは体を伸ばしリラックスする姿をカルラは少し物珍しく眺めていた。


「何その目付き?やらしい」と、ルナはニヤつきながら言う。

「僕はこの十四年間という日々の中でこうやってほとんど関係を持たない女の人と二人きりで過ごすという経験があんまりないんだ。だから、今みたいに注視することがあると思うけど下心はないから安心して」

「カルラってもう十四歳なんだよね」

「そうだよ」

「それならもう私を性的な目で見ててもおかしくないってこと!?えっち!変態!」

「僕はルナみたいな子供っぽい人よりも大人びた人が好みだよ」

「誰が子供っぽいじゃー!」


ルナは顔を真っ赤にしながらカルラの肩の周りを拳を丸くして、小突く。

カルラは鬱陶しいと思いながらもルナを元気付けることが出来た、と、嬉しくも思った。


草原の中をしばらく歩き続けこと15分ほど、町から一番近い森にやって来た。ここには様々な魔物が住んでおり、魔導師の同行が無ければ入ることが出来ないほど危険な所なのだ。


「どうしてそんな危険な所に?私の戦闘力を測るだけなら町で魔法使いと戦えば良いじゃない」

「それも考えた。けど、これ以上ルナが魔法を使えないことが町中に広まると僕としても色々と面倒なことになる。だから人気の少ないこの森にやって来たってわけだよ」

「そうゆうことか」


ルナが外に来た目的を確認していると森の奥の気が音を立てているのに気づき、その方向を注視すると森の木よりやや大きいゴブリンが二匹こちらに近づいて来るのが分かった。

ルナはもっとゴブリンって小さくないの?と、顔を真っ青にしながらボソボソと言ってきた。


「あれは大、中、小の大きさの内、中に当たる個体で、おそらくルナが知ってるのは小の個体だと思う」

「私今からあれと戦うの?どう見ても体格に差があるように見えるけど?倍はあるわよ」

「はい、戦って勝って。早く!早く!」

「せ、急かさないで。分かったから」


泣きそうなのを堪えながら袖を捲り気合いを入れるルナ。片方のゴブリンはルナの闘志に気づいたルナ目掛け突進して来る。

ルナは魔物という存在と初めて戦うのか、さっきの闘志が消え去り、ゴブリンに背中を向け辺りを走り回る。

カルラに助けを求めようとも思ったが流石に歳下で、しかも自分よりも力が弱い存在に求めるのは間違っていると思い、正面を向き戦いの意志を固める。


「オラァァァァァァァァァ!」


ルナは声を上げながらゴブリンの顔面目掛け拳を振るう。

攻撃は当たりゴブリンは一発で白目を向いき、口からは泡を吹いていた。

その光景を見るや、ルナは目を輝かせた。もしかしたら自分は案外強いのではないかと思ったのだ。

気分が良いままルナはもう一匹のゴブリンに向かって戦いを挑む。しかし、ルナがいくら近づいてもゴブリンは見向きもしない。

それにルナのプライドが傷ついたのか、ゴブリンの背中に重い一撃を当てた。すると、木にもたれる形でゴブリンは倒れた。


「たーおしたよ!カルラ!」

「やっぱり強いんだ。兄さんの下僕と戦った時もそうだったけど、ルナは筋力が凄いんだ。見た目じゃ全く分からないのに」

「そうでしょう!そうでしょう!外見だけじゃ単なる美少女でしょ!」

「中身残念だな」

「なんか言った?」

「何も」


これ以上何かを言ってはいけないと察したのかカルラは黙った。

そんな会話をしていると背後に女性が立っているのに気がついた。容姿はリンゴのように赤い長い髪の毛を下げ、白と黒の色のローブを身にまとい、胸元には紋章を付けていた。ルナよりも少し年上な感じで大人びていてカルラは女の人を見る度少し顔が赤くなった。

ルナは気絶しているゴブリンに夢中なのか女性には気づいていなかった。なので、警戒しながらもカルラがその女性に話しかける。


「あ、あの、なんか僕達に用事でもあるんですか?」


女の人はカルラの問いを聞くと目を少し細めて微笑む。


「僕達…というよりはそこの女の子にね」

「ルナ!君にお客さんだってよ」


それを聞くとルナはゴブリンにそっぽを向き、不思議そうな顔でカルラに近づく。


「なになに?私に用事?」

「そうみたいだよ。なんでかは分からないけど」


カルラが女の人にルナのことを紹介する。

女の人はカルラに礼を伝えると、ルナのことを見つめる。ルナは背筋を伸ばす。


「君が昨日コロシアム近くの広場でトーラルト家の長男の下僕と決闘をしたのは」

「そ、そうです!はい!」

「私もその光景を見ててね、あれは見事な戦いっぷりだったよ」

「み、見てたんですか。あれを。はぁ」

「君はどうやら魔法が使えないみたいだね」

「ひぇ!?そそそ、そんなことは!頑張れば!頑張れば使えます!」

ルナは突然聞いてほしくないことを聞かれたため声が裏返る。

「そんなに驚かなくていい。別に使えないことを馬鹿にしたりするつもりはない」

「それならいいです。使えませんよ、魔法」

「やはりそうか」

「そんな私になんの用事でしょうか?」

「そんな君だから…こそだよ。着いて来て欲しいんだ私に」

「えぇ。急ですね」

「そのパートナーも連れてくると良い。きっと君の支えになってくれるから」

「言われなくても連れていきますよ」

「そうか分かったよ」

「そう言えば遅れました。ルナと言います。パートナーはカルラって言います」

「私の名はシルナと言う。これからよろしく」

「よ、よろしくお願いします」


ルナはカルラを呼びシルナのことを紹介する。すると、カルラは顔を硬直させ、目を丸くする。


「あ、あなたほんとにシルナさんなんですか?」

「そうだとも」

「ってことは、その勲章は最高魔導師の物ということですね」

「その通り。これはあの試験に合格した時に貰ったものだよ」

「しかもその柄。初代受賞者ですよね」

「よく分かるね。流石はトーラルト家の人間だ。見る目が違うな」


シルナは目を鋭くしてカルラのことを見つめた。



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魔法が絶対の国で私は【魔法】が使えない 饅頭 @Sousakumanzyuu

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