第2話 首刈~くびかり~

一昼夜歩いても人と出会ていない。翌日も歩く。

いい加減、水が飲みたい。流石に鳥の血は飽きた。まずいしな。

この方向であっているのかと思うが問題はない。どうせ知らない土地だ。

どこまででも歩いてやる。歩くと言えば平戸藩まで歩いたことがあったな。

あれは諜報の為だったか。薩摩からは遠かったな。

それに比べれば大したことはない。気が付くと周りに

杭は立っていない。ふむ、戦場からは抜け出したか。

辺りも暗くなっていく。元々暗いのだが夜になったという事か。


そしてついに探していたモノが目の前に現れた。


遠くに、遠くに篝火がともった。という事は人がいる!

敵か味方か、いや、味方などはいないか。そもそも俺はこの世界の

住人ではない。であればだ!ここは敵の世界。

さて、どうやって取り入ろうか・・・。歓迎はされないだろうな。


おれは走りもせずに歩く。ゆっくりと。体力を使いたくない。

親父殿に良く怒られたモノだ。無駄に体力を使うなと。

親父殿!俺は今、よくわからん世界に居るぞ!かえったら土産話で

語ってやろう。

いや、ここは地獄だったな。俺は死んだのかもしれんしな。

だったら、親父殿がこっちに来たら困らぬように俺が色々としておくか。


そんな事を考えていると既に篝火までもう少しの距離となっている。


俺が目を覚ました場所は戦場の後だった。ならば方法はたった一つだ。

・・・俺を売るしかない。


「おい、貴様。どこからやって来た。」


俺は衝撃を受けた。べぶ(牛)が喋ってる!それも人のように立っている!

なんなんだ!物の怪か!妖怪か!


「どこからやって来たかと聞いている!ん?まて。その装いは

 ミカゲ一族の生き残りか?」


べぶ(牛)がペラペラと喋っている。ふむ。こいつらの敵はミカゲという一族か。

このべぶ(牛)人間は鉄の棍棒をポンポンと手でもてあそんでいる。


うむ、どっちを使おうか。切れ味で言えば脇差の方だな。しかし、

まだこの牛人間は喋っている。バカだな、喋る前に俺を捕らえるべきだ。

門番失格だな。


俺は!脇差を抜き、横なぎ一閃。牛人間の腹を掻っ捌く。

もう片方のべぶ人間を返す刀で袈裟切りをする。くそ、べぶ人間の大きさだと

真っ二つにはならんな、脇差だしな。

異変を察知してか兵士の様なモノたち十数人が走ってやってくる。

が、俺を見てつっ立っておる。

全くなっておらん!ここの兵共はボンクラじゃ!


俺は叫ぶ。「ここで一番偉いヤツに会わせろ!」と。

俺の大声にたじろいだのか?本当にだめだ、こいつらは。こういう場合は

有無を言わさずに俺をすぐに捕らえる所だろうに!こん(この)バカ共が!


「どうした。何事だ」


その声と供に現れたのは。おお、人間の顔だ。いや、コイツ角が

生えているぞ。なんと!鬼か!やはり地獄には鬼が居ったか!

面白い!一度鬼とは戦ってみたかったのだ。


そもそも、得体のしれぬモノの前に無防備で現れる角の生えた人間。


ボンクラじゃ。


「俺は飲み食いに困ってここまで来た。さっきの門番の代わりに

 俺を雇わないか?3食と昼寝で雇われて遣る。」

おれはゲラゲラと笑いながら、そして真面目な顔でそう言うと


その鬼はブチ切れたのか「こいつをぶっ殺せ!」と号令をする。

一番先に動いたのは俺だ。


遅い!俺は既に鬼にむけて打刀を投げつける。どうせ拾った

真面に使え無い刀だ。その鬼は大きくのけ反り避けた。

腹が開いている。俺は腹に脇差を突き刺し、そして捩じる。そのまま

横なぎで腹を掻っ捌いた。そして俺は反転して首を狩る・・・・が。

落としきれなかった、これは不覚。仕方がないので

その鬼が脇に刺していた刀を抜き、それで首を落とした。


ふん。どの兵士も呆気に取られて微動だにしていなかった。

こいつら本当に兵士なのか?

しかし、この刀はいいモノだ、俺が貰っておく。


俺は首を兵士共の前に転がし、次はどいつだと大声で叫ぶ。

そりゃあ動けんわな、この中で一番強そうな

この鬼があっという間に死んだのだから。


辺りが静まり返る。



・・・お前ら何か言え。


俺は一番手前に立っていた・・・豚か!?豚人間!まぁそいつに

ここで一番偉い奴の所に案内しろと伝える。すると俺が投げた首に

指をさした。コイツが!?それはもう驚いた。


「どけ!豚共!そいつか!俺の弟を殺ったのは!」

その声の主は豚共を蹴飛ばしながら俺の前に現れた。


「許さんぞ!俺の弟を殺しやがって!」

現れたべぶ人間は鼻息荒く鉄の棍棒で地面をドカドカとしている。

俺はそいつに向かって左手で『来い来い』と手招きをする。

豚の兵士たちは俺とそのべぶ人間を丸く取り囲んでいる。


「やっちまえ!その人間をぶっ殺せ!」


取り囲んだ者達はそう言う声をあげている。

これはもう俺の勝ちだ。すでに1体1の戦いになってしまったのだ。

本来ならば、全員で俺を仕留めに来るべきだったのに。


いきり立ったら負けだ・・・。そのべぶ人間は大振りで棍棒を

振り回しながら突っ込んできた。あたるか!そんなもん!

ひょいひょいと避けながら懐に入る隙を伺う。

というか、いつでも入れそうだ。俺はまず右手の健を斬る。

その後に左手の健。手はワザと斬り落とさない。


「ぐああああ」と叫びながら腕を見ているべぶ人間。

取り囲んでいた兵士達の歓声は既になく静まり返っている。


おれは顔面に蹴りを入れる。もう一度入れる。

倒れるまでいれる。そのべぬ人間はおれの胴に腕を回そうとする。

が、させるかよ。大きく後ろに下がり飛び上がって顔面に蹴りを入れる。

・・・なんだ?気絶したのか?仕方ないので俺はそいつの首に刀を当てる。



「そこまでじゃ!」


その声は野太くなく・・・女子の声だった。

取り囲んでいる兵士たちが避けて道が出来た。その向こうから

ゆっくりと歩いてくる。なんじゃ!?上半身裸ではないか!いや!

着ている!肌に密着したような服・・・服か?まぁ乳の辺りは

隠れている。胴回りは丸見えじゃ。下半身は着物の様であり、袴の様であり。

ご立派な角まで生えている。


べぶ人間の首に刀を当てている俺を上目使いで見下している。

・・・いい目だ。女子にしては上等だ。

俺はそいつの眼を見ながら・・・べぶ人間の首を切り落とした。


ふん、絶句した様な、驚いた様な顔をしやがって。

おれは切り落とした首をそいつの前に投げた。そして同時に


「俺を雇え、あんた偉いんだろ?見りゃわかる」


その言葉にその女子は笑い、持っていた槍を構えた。

本当か!槍の歯の部分が炎に包まれているじゃないか!

どんな術だ!


「やっちまってください!スレイン様!」

「やっちまえ!」


取り囲んでいる兵士たちのおかげでコイツの名前が分かった。

俺は刀を構え、「ふぅぅ」と息を吐く。

スレインも槍を真正面に構える。うむ、いい構えだ。

俺はじりじりと、足幅の分ずつ間を詰めていく。

槍と刀では刀の方が不利だ。それに加え刃が燃えている槍だ。

・・・頼むからお前から動いてくれよ?


スレインが槍を横に構えなおす。

その隙に俺は一気に間合いを詰める!が!スレインは半歩引きながら

横なぎを繰り出す!俺は転がりながら避けると、俺よりも少し前方、

スレインの方へ刀を投げ出した。

案の定に突きに来た。

俺は槍を避けながら前に出てる。そして槍の持ち手を両手でつかむ!


ゆっくりと右手を槍からはなし刀を拾う。そして俺は刀をスレインの

首近くに突き立てる。ふむ、スレインは余裕だ。


「どうした。首に差し込まないのか?」


そう言いながらスレインは不敵に笑っている。


「そんな事したら俺は飯にありつけないじゃないか。

 俺はミカゲとかそんなもんは知らん。気が付いたらあの戦場跡にいた。

 腹が減っては何も出来ん。俺を雇え。そして飯を食わせて酒を飲ませろ。

 そしたら俺は働いてやる。」


スレインが槍を持つ手から力を抜くのが分かった。そして左手を離した。

そして俺も槍から手を離す。


「はっはっは!気に入った!面白い余興じゃった!わかった!

 飯を食わせてやる。」


その一言に俺はゆっくりと刀を下げる。

その時にスレインの左手。小刀が俺の腹に触れている。

ふん、承知の上じゃ。同時に俺の脇差もスレインの腹に当てている。


「はっはっは!なおさら気に入った!ついてまいれ!飯を食わせてやる」


ふん、こいつ手を抜きやがって。

綺麗な張幕の中に入っていく。

スレインが座ったので俺も座った。相手が話しかける前に俺が話す。



俺は島津藩家臣、頴娃7代目当主 頴娃 久虎じゃ。

俺は戦いの最中ぶっ倒れてのう。突然にこの世界、いやここは地獄か?

この先の合戦場の社の中で目覚めた。

鳥を落ちていた矢で射貫き食っておったがさすがに飽きてのう。

いい加減飯が食いたくてここに来た。そういえば、

そりゃあむごいもんじゃったのう。アレはお前たちが遣ったのか。

アレはなにかの儀式か?杭に人間がくくりつけられておったぞ。

そう言うと俺は笑ってやった。


「ふむ、貴様はさっき、敵の首を切り落としておったが

 アレはなにかの儀式か?」

そう言うとスレインはニヤリとした。

なるほど。一緒の事か。こいつらの文化なのだろう。


「我は島津藩とか知らんし、聞いた事もない。そしてお前の

 戦い方も珍妙に見えた程だ。そして首刈り。あんなことをする

 人間を見たのは初めてだ。なるほど、にわかには信じがたいが

 嘘をついている風には見えんしな。・・・再度言う。ミカゲ一族では

 無いんだな?」

スレインは真顔で俺に聞いてきた。


ミカゲとかいう物は知らん。そんなにも俺はミカゲ一族に似ているのか?

おれはそう問いかけるとスレインは笑いながら言う。


「そりゃそうだろうに。貴様はみるからに人間だ。

 であるならばミカゲ一族と思うのが普通じゃろう。飯の準備をさせる。

 食ったら我と共に来い。我もここで飯を食おう。頴娃 久虎とか言ったか。

 ふむ、呼びにくいな。」



ふむ。こいつらは物の怪、化け物と思っていいだろう。

そして人間を敵対視している。そして俺は言う。

「呼びにくいか!ならばそうだな。・・・俺の事は

 『首刈くびかり』とでも呼べ。」と俺はわざとらしく笑う。



そして大事な事を付け加える。



「言うが俺は人間の肉は食わんぞ?」


 














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御影~シャドウレジェンド~ erst-vodka @east_vodka

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