第13話 駿府攻め、そして・・
空想時代小説
岡崎城・浜松城と徳川方の城を攻め落とし、豊臣勢は5万の勢力にふくれあがっていた。豊臣勢有利と見て、各地の将が駆けつけてきたからである。細川忠興、九鬼嘉隆(くきよしたか)といった旧徳川方の武将も駆けつけてきている。
豊臣勢の問題は兵糧の確保だった。戦線が伸びてきたので、補給隊がなかなか到着しなくなり、進軍スピードが遅れてきた。しかし、九鬼水軍が味方になり、海を使った補給ができるようになった。長州の毛利輝元が大坂まで兵糧を運び、九鬼水軍がそこから前線まで運んでくることができるようになったのは朗報だった。
浜松城で諸将が軍議を開いている時、その報はもたらされた。
「家康亡くなる」
そこにいた面々は、呆気にとられていた。しばらくして歓声があがった。
「やったー!」
「倒したぞ!」
という声がいたるところであがった。だが、政宗は腑に落ちなかったというか、家康をわが手で倒したかったというのが本音だった。やったという気持ちより、残念という気持ちの方が強かった。
家康は病気で亡くなったとのこと。大坂や関ヶ原に来ていたのは、影武者であったらしい。それで徳川勢の士気が高まらなかったのかもしれない。
続いて、秀忠も降伏の意志を示してきた。駿府城を無血開城するかわりに、秀忠は家康の冥福を祈るので久能山にて謹慎するということを伝えてきた。
豊臣勢の中には、
「この期に及んで存命を願うとは!」
「甘すぎる。切腹させよ!」
という声が上がった。しかし、政宗から
「おのおの方、まだ戦をしたいですか? 家康亡き今、我らの脅威は取り除かれ、秀忠殿が戦う意志がない以上、戦をする意味はなかろう。民の願いは戦のない日の本じゃ。それができるのは我々しかおらぬ。今しかなかろう」
との言葉で過激な声がおさまった。
8月10日。駿府城は無血開城となった。海からの風がさわやかな日であった。そこで、今後の国割が秀頼公から発せられた。
「奥州・羽州探題 政宗 南部・佐竹・最上は本領安堵とする。
関東管領 上杉 江戸城を本拠とせよ。関東で上杉に従わぬ者がおれば切り従えよ。
北陸探題 前田 新たに越後が加わるので統治に留意せよ。
甲信探題 真田 松本城を本拠とせよ。兄信幸は徳川方であったが、秀忠降伏に功があり、上田城主とする。
東海探題 大野治房 名古屋城を本拠とせよ。駿府城は徳川ゆかりの者に任せよ。家康みたいにお家とりつぶしで浪人を多く出したくない。九鬼嘉隆は本領安堵とする。
京都守護 細川 朝廷との役目を命ずる。
畿内探題 大野治長 大坂を本拠とせよ。京都以外の地の統治を任せる」
ここで、一同の視線がうろたえた。秀頼公はどうされるのか、それが一同の疑問となった。国割の発表が続く。
「四国探題 長宗我部 高知を本拠とせよ。従わぬ者は切り従えてよい。
中国探題 毛利 福島正則は岡山へ転封とする。
九州探題 加藤 黒田・島津は本領安堵とする。 以上でござる」
ということだったが、肝心の秀頼のことがでない。政宗が、
「国割、かたじけのうござる。ところで、秀頼公はどうなさるのでござるか?」
「わしか、朝廷と相談して将軍か関白にしてもらう。だが、京都にいる気はない。しいていえば、巡見使となって諸国をめぐりたい。半年か長くても1年ごとに、どこかの世話になり、その土地の民と話し、その領主の治世がうまくいっているかを見てみたいのじゃ。領地はないゆえ、そなたたちの世話になるぞ。それでどうじゃ?」
「それはもちろん歓迎でござる。ぜひ、一番に仙台に来てくだされ。秋のみちのくはきれいですぞ。ところで母君と奥方は?」
「母は淀城にて大野治長に世話をしていただく。千姫は父母のもとに戻す。子がないゆえ、新しい伴侶を見つけてもよいであろう。ところで信繁、ひとつだけわがままを聞いてはくれぬか」
「はっ、何なりと」
「お主のところの大助をくれぬか? 大助ならばわしの諸国巡検のよき相談相手になるのじゃが・・・」
「・・・・」
信繁はすぐに返事ができなかった。真田家の跡取りなのだ。
「大助が長子と存じておる。じゃが、心を開いて話せるのは大助しかおらぬ。腕もたしかだし、草の者も使える。それに大助には弟がいるというではないか。わしが死ぬまでとは言わぬ。せめて全国を巡り終わるまで、大助をくれぬか?」
「秀頼公にわが子大助をそこまでお引き立てくださり、恐悦至極。早速、大助の意志を確かめた上でご返事を申し上げとうござる」
「うむ、それでよい。いい返事を待っているぞ。ところで皆の者、大事なことを最後に言う。今後、領内の仕置きはともかく、他国との戦はいっさい認めぬ。それを破った者は皆で征伐いたす。戦のない日の本を作るのじゃ。よいな皆の者」
政宗は、これで平穏な日々がくると安堵した。上杉が会津から江戸に移れば、奥州・羽州は政宗の統治となる。今までのように国替えになるおそれはないし、徳川への奉公もしなくていいのだ。民のことを考えていけばいいのだ。
後日、秀頼は朝廷より「武家監察取締役」という職に任じられた。朝廷公認の武家の監督係である。母の淀君からは、さんざん嫌味を言われたが、秀頼はうるさい母親から離れたかったのである。大坂城でおべっかを使う家臣どもやおなごの相手をするのに秀頼は、あきあきしていたのだ。
秀頼自身は信長の生まれかわりだと思っていて、かぶき者の真似をしてみたいと思っていたのだ。政宗の前に来た時には、まさにかぶき者の姿で、政宗は驚嘆してしまった。
あとがき
政宗シリーズ第10弾となるこの作品を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。「政宗が秀吉を殺していたら」と同様に、「もし、あの時にこうなっていたら」という発想の元に書きました。その場面は、関ヶ原前の上杉攻めで直江の誘いがあり、それを受けていたらという発想でした。ある学者は、直江が政宗を誘った形跡があると言っておりました。封印された歴史ですので、定かではありませんが、もしそうだとしたら私が空想したような展開になっていたのではないかと思います。
大坂の陣以降の空想は、でき過ぎという感がしないではありませんが、秀頼像を単なる坊ちゃん像にせず、口うるさい母親に反抗する若者とすることで、新たな展開が描けたかと思います。大坂道明寺や天王寺をはじめ合戦の場を自分の足で確かめて、戦のイメージを膨らませてきました。苗木城や岩村城はまさに攻めにくい城だという感じがしました。読者の方も、一度足を運ばれてみてはいかがでしょうか。
飛鳥 竜二
政宗VS家康 飛鳥 竜二 @taryuji
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