七話「親友」
「私見てたよ。ククースがいじめっ子に私のことを虐めないでって言いに行く所。」
「見てたの!?」
私は驚きのあまり大きな声が出ました。
なーちゃんは私のあざの出来た頬を撫でながら言いました。
「私嬉しかったな。最初の頃は他人のことに全く興味が持てないって言ってたククースが、私のためにいじめっ子に立ち向かってくれたことが。」
「…でも私、なーちゃんがいじめられているのに見て見ぬふりをしてたんだよ。」
「でもククースは今日私のことを思っていじめっ子に立ち向かってくれたじゃない?ククースは決して見て見ぬふりをしていたわけじゃない。私はククースが私のことを思ってくれたことが分かったから、それで十分よ。」
なーちゃんの言葉は、私の涙を誘いました。私はいつものように涙目になりながら、なーちゃんの話に耳を傾けていました。
「私知ってるもん。ククースは赤の他人のことを知ったこっちゃないと思っていても、実際は相手のことを誰よりも理解している。」
「ククースはただ素直になれないだけなんだよ。素直になれなくて、いつも自分の本心を包み隠してしまう。貴方は誰よりも繊細で、色んな人に気配りが出来る優しい女の子。そんな優しいククースのこと、嫌いになれるわけ無いじゃない。」
「…なーちゃん。」
「だからさ。そんなに自分を責めないで。ククースは私の大切な友達なんだから。」
なーちゃんは私に手を差し伸べてそう言いました。
「…でも」
しかし私はなーちゃんの手をすぐには握れませんでした。
もしかするとなーちゃんは、またやせ我慢をしているのかもしれません。ここで私がなーちゃんの手を取ってしまったら、また私はなーちゃんに甘える生活に逆戻り。
それはあまりにも虫がよすぎるのではないでしょうか。
「……。」
私はなーちゃんの手を取ろうとした自分の手を降ろし、黙りこくってしまいました。
「…ククース。私の正直な話、聞いてくれる。」
なーちゃんはそう言って、自分の正直な気持ちを私に打ち明けてくれました。
私は覚悟して彼女の言葉に耳を傾けました。
「私ね、本当はあの日お父さんとお母さんが帰ってきてくれなくて寂しかった。電話をかけてるときだって、本当は帰ってきてほしいって言いたかった。」
__やっぱりあの時な―ちゃんはやせ我慢をしてたんですね。
「いじめっ子に暴力を振るわれてた時、私はとてもつらかった。正直私は一度だけ、あの時ククースを助けたからだと後悔してしまった。」
__やっぱり…
「でもククースがいてくれたから、私は救われたんだよ!!」
__……。
「…え?」私は顔を上げてなーちゃんを見ました。なーちゃんは初めてこの場所で話したときと同じ、優しい目をしていました。
「さっき私に我慢しなくて良いよって言ってくれて、本当に嬉しかった。我慢をしすぎだなんて、私は生まれて始めて言ってもらえた言葉だよ。」
「私はククースが私のことを知ってくれたことが嬉しい!私のことを知って、私に我慢しなくて良いと優しい言葉をかけてくれた。」
「私はそれが嬉しい!やっぱり私はククースの友だちになって良かった!ありがとう。本当にありがとう。」
なーちゃんは私を抱きしめました。なーちゃんの温かさが体中に伝わり、私の留めていた涙は我慢の限界を迎えました。
「私はこれからもククースと仲良くしたい。どんなに虐められても、お母さんやお父さんが滅多に帰ってこなくても気にしない。ただ私は、ククースが傍にいてくれるだけで幸せだから。」
私は優しい優しいなーちゃんの言葉に、溢れる涙が止まりませんでした。私はなーちゃんのことを抱き返し、なーちゃんの温かみを存分に感じていました。
「なーちゃん…」
「ククース。私と親友になってくれる?」
私はいまだに理解できませんでした。
なーちゃんは優しすぎます。どうしてそこまで私に優しくしてくれるのでしょうか。
私はなーちゃんの言葉に甘えて良いのでしょうか。
…色々逡巡してしまいましたが、私の答えはもう決まってますよね。
どんなに理解できなくても、なーちゃんはなーちゃんです。
優しくて正義感の強い、私の大切な友達です。
そして私はそんななーちゃんの親友になりたいです。
これからもずっと。
これが私の正直な気持ちです。
「ありがとうなーちゃん!」
私はなーちゃんに抱きつき、言いました。
「私、なーちゃんのこと大好き!」
私となーちゃんはその日を境にに本当の親友になりました。
これが私の親友の物語です。
◯
それから私達は学校を卒業し、離れ離れになるその日まで一緒の時間を過ごしました。
彼女との思い出は私にとってかけがえのない宝物です。大切な思い出が多かったからこそ、卒業して彼女と別れなきゃならなくなった時、その悲しさは計り知れないくらいのものになっていましたけれど。
卒業する数日前、私はなーちゃんと「やりたいこと」について話をしました。
なーちゃんはいつか看護師になって、昔の自分のように病気で苦しんでいる人たちを救いたいと言っていました。なーちゃんはそのために、わたしたちの中学校がある街から遠く離れた街へと引っ越して行きました。私はそのことが辛すぎて仕方ありませんでした。
ちなみに私が何を言ったのかは覚えていません。どうせ大したことを言った覚えも無いので、別に思い出さなくても良いですよね。
なーちゃんとは卒業してから少しの間だけは手紙でのやりとりでコミュニケーションをとっていました。しかし私は高校生になって間もなく家出したので、そのやりとりも途切れてしまいました。
だから私はなーちゃんが今、どこで何をしているのか全く分かりません。
なーちゃんは元気にしているでしょうか?
きっと今頃、看護師になるために必死で勉強しているのでしょうね。私は心の片隅で、ずっと応援してるからね。なーちゃん。
「朝ごはんよ~。」
私は解けたヘアゴムを括り直し、朝ごはんを食べにリビングへと向かいました。
私達は卒業式の日に「また会おうね。」と約束を交わしました。
__きっといつか再会できますよね。
そう信じながら、今日も家出の旅を続けます。
私は髪をまとめているリボンを優しく撫でました。これは卒業式の日、なーちゃんから貰ったものです。
私はこれからも托卵の旅々を続けていきます。
大切な親友の存在を、身近に感じながら。
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