第二話「家族内格差」


 昔、とある裕福な夫婦の間に二人の女の子が生まれました。長女の名前はセルフィ、次女の名前はアンセル。


 両親は最初の頃は、二人を平等に育てていました。

 最初の頃は似たような性格だった二人。しかし、彼女たちは成長するにつれてどんどん真逆の性格になっていきました。


 姉はとても生意気で贅沢ばかり言う女の子に。対して妹は欲しがらず我慢強い女の子になりました。


 特に姉のわがままさは困ったもので、彼女は両親に対して「高級車に乗りたい。」だとか「高い洋服が欲しい。」などととにかく贅沢でその要望は止まる所を知らず。


 しかし両親は俗にいう親バカで、そんな彼女のことが可愛くて仕方がありませんでした。


 特に父は彼女を喜ばせるために、彼女の欲しいものは全て買い与えました。彼女の父親は大企業の重役として、かなり儲けがあった為に、彼女の願いは全て叶えられていました。


 長女セルフィはそんな現実にとても満足感を示していました。

 一方で次女アンセルは、姉と違って欲が無くとても親孝行な娘でした。

 その上とても純粋で、生意気で意地悪なセルフィよりよっぽど可愛げがありました。


 にも関わらず両親は姉とは違って、アンセルに何も買い与えようとしませんでした。姉に対する出費があまりにも多いことを懸念した彼らは、彼女が多くを欲しがらないこと都合よく思っていたのでしょう。


 しかし、アンセルは明らかに姉の方が贔屓されているのに、嫌な顔一つすることはありませんでした。一方で姉は相変わらず両親にわがままを言い続け、贅沢三昧な日々を謳歌しました。


 こうして二人の間には格差が生まれ、今もなお二人の姉妹の差は広がり続けているのでした。



   ○



 夏の暑さがだいぶ和らいだ、晴天の昼下がり。

 私は今日も帽子を片手に行くあてもない家出の旅を続けていました。

 マントを使って高らかに空を飛び、空から良さそうな家を探しながら。


 私が家出をする前に、倉庫から引っ張り出してきたこのマント。思い返してみればこのマントもまた、私の家出を勇気付けるきっかけになったものでもあります。


 まあ肝心な時に使えない、使い勝手が悪く一時間程度飛行したら数時間使えないと言ったポンコツ具合ですが、こうやってたまに空を飛ぶと気分が楽になります。遠い場所にも簡単に移動できますし、旅をするにはもってこいだと思います。


 さて、そうこう言っているうちにそろそろ一時間が経過しそうなので着陸しましょう。


 私は先ほどから目をつけていたそこそこの大きさを誇る街の入り口付近に着地しました。


「今日はご飯が美味しい家族に出会いたいですね…。」


 図々しくそう呟く私。空腹で唸るお腹をさすりながら、私は街へと足を踏み入れました。いつも通りに街のメインストリートを歩き、私は今日泊まらせてもらう家を探します。


 この街の人々はとても穏やかでした。街ゆく人はとても温和な風貌をしており、見ず知らずの私にやさしく挨拶をしてくれます。


 これはどの家に泊まっても外れはなさそうです。完全に浮かれている私なのでした。


「お父様、早く行きましょ。」


「ちょっと待ってよセルフィ。今準備するからさ。」


 私が鼻歌混じりに歩いていると、とある親子のやり取りが目に入りました。

 豪華な服装を身にまとい、高級車に寄りかかっている女の子と、彼女に急かされ急いで車の支度をする男性。セルフィと呼ばれた彼女は、退屈そうに札束の扇を仰いでいました。成金です。


 成金は聞いた話によると、目があったら自慢話をしてくる人種らしいです。できれば関わりたく無いですねぇ。


「あら?どなたかしら。見知らぬ顔ねぇ?」


 最悪です。目が合いました。


「いえ、なんでもありません。」


 私は目線を逸らし、関わりたくない雰囲気を出しておきました。


「あらー。もしかして貴方、私の高級車に乗ってみたいのかしら~?」


 目線の先には彼女の(おそらく父親の)高級車がありました。私はため息をつき、逆の方向へ視線を移します。


「誤魔化さなくても宜しくてよ。貴方のような乏しい格好をした庶民の思いそうなことですわ。でもごめんなさい。あいにく今から私はお父様と二人でドライブする予定なの。ごめんなさいねぇ~オーッホッホ。」


「むっ…。」


 彼女は私のことを言葉で足蹴にした挙句、高笑いによってトドメの一撃を放ち、私に精神的な暴力を振るってきました。もし精神攻撃が暴力罪として通るなら、今からでも彼女を牢屋にぶち込んでさしあげたいところです。


「よし、準備が出来たぞ。」


「遅いですわ、お父様。ではそういうわけで。悔しかったら貴方もお父様の娘になったら?まあ無理な話ですけど。オーッホッホ。」


 そして彼女は最後にそう吐き捨て、高級車に乗って私の横を通り過ぎて行きました。

 最後まで私をコケにしたようなあの態度。私の怒りは頂点に達していました。


「そうですか、そうですか。お父様の娘になってみろですか。」


 そこまで言うのでしたら、なってやりますよ。



–––貴方の家族に。


 


   ○



「おかえり~おねーちゃん。」


 家に入って、私は驚きました。


「何?くくーすお姉ちゃん。私の顔に何か付いてる?」


 家に入って一番に私を出迎えたのは、おそらくセルフィさんの妹さん。彼女の妹ということもあって、彼女もまた豪華な衣装に身を包んでいると思っていたのですが…


「Tシャツに短パン…。」


 私の予想に反して、彼女はとても質素…というよりむしろ貧しい格好でした。


「あ、もしかして私の服見てる?良いでしょ~。この服動きやすくて、めっちゃ気に入ってるの~。」


 服をひらひらさせながら、可愛らしい笑顔でそういう妹さん。

 威張り散らかしてたいして可愛げのない生意気な姉と違って、彼女はとても愛くるしいですね。


 しかし姉と違って、どうして彼女だけあんなに庶民的な格好なのでしょうか?もしかすると、セルフィさんが彼女に対して嫌がらせをしているのかも?それとも彼女の両親はセルフィさんだけを贔屓しているのか…。もしや、家族全員が彼女に嫌がらせを?


 なんだかとても闇が深そうですね。今回の托卵の家族は。



 私の予想は、大方当たっているようでした。


 しかも私が思っていたより、二人の扱いの違いはより顕著で酷いものでした。


「いただきますわ。」「いただきまーす。」


 例えばお昼ごはん。

 姉セルフィさんは特注の高級ステーキなのに対し、妹アンセルさんは昨日の残り物のカレー。


「フフフ、どう?これが私の部屋よ。」


 次に部屋比べ。

 セルフィさんは言わずもがな豪華で広い部屋。部屋のあちらこちらに高そうな絵画が飾られていて、壁は金箔が貼られていてかなりゴージャス。


「部屋?何言ってるのくくーすお姉ちゃん。私の部屋なんてないよ。」


 一方でアンセルさん。彼女は比べるどころか、部屋すらありませんでした。かわいそうに。

 その他にも、例えば休日の過ごし方は


「休日はお父様と一緒に海外へ旅行に行きますわ。」とセルフィさん。


「休みの日?休みの日は家でゲームするに限るよ~。」とアンセルさん。


 おやつの時間に関しても


「お父様、最近発売されたばかりの数量限定高級モンブランを大急ぎで頼みますわ。」


 数時間もせずに届いたモンブランを高そうな紅茶と共に嗜む姉。


「やっぱりおやつはポテチがいちばーん♪」


 棚の中からポテトチップス(コンソメ味)を取り出して食べる妹。

 姉妹でありながら、彼女たちの扱いの差は明確でした。


 彼女たちの両親はやはりセルフィさんに対しては色々と買い与えたり甘やかしているのに対し、アンセルさんに対しては冷ややかな対応で済ましていました。


 親に愛されて何でもしてもらえるから、どんどんわがままになっていくセルフィさん。

 欲しがらないから親に良いように思われ、あからさまに親から出資を渋られるかわいそうなアンセルさん。


 なんとなく、今回の托卵の家族の内情が理解できました。


 仮に私がアンセルさんの立場だったら、こんな家族嫌になってしまうと思います。

 ちなみに今の私の扱いは二人の丁度中間と言った感じです。セルフィさんのような贅沢さには程遠いけど、アンセルさんほどではない。


 そんな私ですらセルフィさんに対し嫉妬に近い感情を抱いているのに、アンセルさんはどうしてあんなに笑顔でいられるのでしょうか?


 彼女は不満を抱くどころか、今の生活に満足感を覚えているように見えます。

 何故でしょうか?

 まあ、私には知ったこっちゃ無いですけれど。



「いただきます。」


 彼女たちの差は、やはり夕ご飯の時間も顕著でした。

 ちなみに私と母と父の夕ご飯は、そこら辺の家族と大差ない普通の家庭料理です。


「やっぱりディナーは最高級のフルコースに限りますわ~。流石はお父様、分かってますわね。」


「当たり前じゃないか、私たちはセルフィの喜ぶ姿が大好きなんだから。さあ、どんどん食べてもっともっと喜ぶ姿を見せてくれ。」


「そうよ~、お父さんの言うとおり。セルフィが喜んでくれれば、私たちも幸せだわ。」


「ウフフ、それはどうも」


 セルフィさんは…まあ、言わずとも分かるでしょう。例によって高級料理です。そして


「もぐもぐ。」


 私の隣で、黙々と私のより質素な料理を食べるアンセルさん。両親はそんなアンセルさんに見向きもしません。彼女は完全に母と父からほったらかしにされているようでした。


「そうだ、セルフィ。明日は父さんと母さんと3人で旅行にでも行かないか?」


「あら~、良いじゃない。」


「そうね。それも悪くないわ。」


「…旅行、いいな…。」


 ここでアンセルさんは、両親に対して初めて口を開きました。


「何を言ってるんだアンセル。お前は家で大人しく遊んでなさい。」


「そうよ。旅行に行くのもお金がかかるの、だからだーめ。ククース、明日はこの子と一緒にお留守番頼んだわよ。」


「…。」


 私は呆れて言葉が出ませんでした。

 まさか彼女の両親がここまで露骨にアンセルさんに冷たいとは思っていませんでしたし、さすがのアンセルさんも心なしか一瞬寂しげな表情を浮かべていました。


 しかし


「…そうだね。ごめんなさい。」


「分かればいいんだよ。分かれば。」


 彼女はいつものように明るい笑みを浮かべ、両親に丁寧に謝っていました。彼女は何も悪くないのに。アンセルさんはまるで、自分が今置かれている立場を理解しているかのように見えました。


 私はなんだか彼女のことがとても気の毒になってきました。

 ここで私が苦言を呈すれば、彼らは考えを改めるかもしれません。


「ごちそうさまでした。」


 しかし、私は知らないふりをしてそそくさとその場から立ち去ります。

 所詮彼女たちは帽子の魔力で一時的に家族になった存在。

 たとえ托卵の家族がどんな問題を抱えていようと、私には知ったこっちゃありません。


 知ったとて、私にはどうすることも出来ないでしょうしね。私はただの余所者ですから。

  


 どんなに二人の間に差があっても、流石に共通で使用する場所は一緒です。

 私は金ピカのお風呂に入りながら、お金持ちの気分を楽しんでいました。


「~~♪」


 久しぶりのお風呂に、私は満悦していました。とは言っても決して長い間体を洗っていないわけではありませんよ。最近はシャワーだけの家が多くて、まともに湯船のお湯に浸かっていなかっただけです。


 それにこの家のお風呂は格別です。お湯に使ったお肌はスベスベ、白く濁ったお湯からたちのぼる湯気はとても上品で良い香りがしました。


 アンセルさんもこのお風呂に入れるんですよね…いえ、独り言ですよ。

 私は脱衣所に出て、ふわふわのバスタオルで体を拭きます。すると扉の向こうから、誰かの話し声が聞こえてきました。


「…ら、アンセル。」


 私は扉に耳を当てます。


「あ、セルフィお姉ちゃん。」


「聞いて~、私たちの旅行先はお金持ちが集う国『マネルニア』に決まったのよ。ずっと行きたかったから嬉しいわ~。」


「…そうなんだ。良かったね。」


「オーッホッホ、もしかして貴方も行きたかったのかしら?」


「…ま、まあ。」


「そーんなに行きたいのならお父様にわがままを言ってみたらいかが?まあ、あなたには無理でしょうけど。アハハハハ」


「………あ、くくーすお姉ちゃん。」


 私がドライヤーで髪を乾かし終えて脱衣所を出ると、そこにはアンセルさんが立っていました。


「どうしたの?」


「あのね、今日一緒に寝よ。」


 アンセルさんは照れ混じりにそう言いました。


「良いですけど…。」


「やったー。ちょっと待っててね、今から急いでお風呂に入るから~。」

 そう言ってアンセルさんはお風呂場に入って行きました。



   ○



「お布団気持ち良い~。」


 アンセルさんは私と一緒の毛布に潜り込み、縮こまっていました。私の鼻を彼女の良い香りのする髪がくすぐります。


「良かったですね。」


「ポカポカだしふかふかだし、もう最高~。」


 そういえば彼女、自分の部屋が無いんでしたっけ。彼女の反応を見る限り、どうやらベッドで寝るのは初めてのようです。私の憶測ですが、いつもはリビングのソファの上で眠っているのではないでしょうか。


 ならばこうして布団で一緒に寝てあげることは、彼女にとっては救いになるかもしれませんね…。


「ありがとね。やっぱりくくーすお姉ちゃんは優しいや。」


「…優しくなんてないですよ。」私は小声で呟きます。


「ん?」


「いや、なんでもないです。」


 私は視線を逸らし、誤魔化しました。

 私が優しいですって?そんなことはありません。だって私は、貴方達のことなんて知ったこっちゃ無いと思っているのですから。優しいはずがありません。


「そう、じゃおやすみなさい~。」


「おやすみ。」


「…やっぱ眠れないや。お姉ちゃん、お話ししよ。」


「おやすみって言ってから数秒しか経ってないですよ。」

 私がそう言うと、彼女はニシシと笑っていました。


「…まあ良いですけど。」


「やったー!」


 そうしてしばらくの間、私とアンセルさんは会話をしました。

 彼女の最近の嬉しかったことや、彼女が最近ハマってる本の話、それ以外にも他愛のない話に花を咲かせる私たち。


 私はこのタイミングで、ずっと気になっていたことを尋ねることにしました。


「あの。」


「ん?」


「貴方は良いんですか?セルフィさんみたいに贅沢な暮らしじゃなくても。」


 私は彼女にそっと問いかけました。

 正直彼女自身、あまり気にしないようにしているのかもと思い、聞かないでおこうかと思いましたが、せっかくの機会です。どうせ明日にはこの家を出て行きますし、聞くだけ聞いておきましょう。


 私の問いかけに、彼女は迷いなくこう言いました。


「私は今の生活で十分幸せだよ。」


 と。


「だって今みたいに満ち足りてない生活だからこそ、こうやって初めてベッドに入れたり、家で好きなゲームをしたり、こうしてくくーすお姉ちゃんとお話ししたり、そういった些細なことに幸せを感じれるんだもの。これ以上幸せなことってないよ。」


「…そうですか。」


 私は軽く彼女に微笑みかけました。

 彼女がそう言うなら、大丈夫そうですね。


「それにこうやって寝る前にこっそりお菓子を食べるのも幸せ~。」


「って何食べてるんですか。」


「えへへ。お姉ちゃんも食べる?たった10円で買える『うめー棒』美味しいよ~。」


「歯磨きしたからダメです。」


「歯磨きなんてしなくても平気だよ~。」


「ダメです。」


「へーき。」


「ダメです。」


「…えへへ。」


 そうして私は彼女を強引に洗面所に連れて行き、歯磨きをさせ、一緒に眠りにつきました。


 彼女は彼女なりに、今の生活を楽しんでいるようでした。

 どんなに家族内に格差があろうとも、彼女が文句ひとつ言わないのには、そういった考えがあるからみたいですね。


 そして両親はそんな彼女の優しい性格を良いことに、偏った愛情の注ぎ方をし続けていると。改めて酷い両親ですね。彼女の優しさに漬け込んでいるのですから。


 これが今回の家族の全貌でした。

 これから彼女たちはどうなっていくのでしょう?

 まあ、私には知ったこっちゃ無い話ですけど。



   ○



「…変だ!大変だ!」


 翌朝、私は騒がしい声に起こされました。

 目をこすりながらその声に耳を傾けると、どうやら声の主はアンセルさんのお父さんのようです。


「どうしたの?」「どうしたんです?」


 声に驚いて、父にそう尋ねる母とセルフィさん。

 私も気になったので部屋を出て、3人の話に耳を傾けました。


「…会社が、倒産した。」


「え?」


 あまりに衝撃すぎる父の発言に、二人は唖然としていました。


「倒産って…どういう…」


「ついさっき連絡があったんだ。…とりあえず、今日の旅行は中止しよう。俺は今から会社に行ってくる。」


「そんな!せっかく楽しみにしてたのに!」

 あらら、何やら大変なことになっているようですね。


「ちょっと!お父様!!」


「セルフィ!落ち着いて!」


「それに…こうなると、もう今まで通りに贅沢三昧とは行かなくなるかもしれない。最悪の場合、家にある高そうなものを売り払わないと…セルフィ、とりあえずこのことは帰ってから話そう。」


「そんな!ちょっと待ってお父様!私の幸せな暮らしはどうなるの!!!」


 セルフィさんの叫びが、広い廊下中に響き渡ります。

 突然絶望の淵に叩きおとされるとは、まさにこのようなことを言うんでしょうね。

 

 セルフィさんはその場に崩れ落ち、震えていました。なんと言うか、お気の毒ですね。


「う…うーん。あれ?どうしたの、くくーすお姉ちゃん。」


 そしてそんなことは露知らず、さっきまで眠りの世界にいたアンセルさんがようやく目を覚ましました。眠そうに目をこすりながら、私の横にやってきた彼女は


「あれ?セルフィお姉ちゃん、なんであんなに落ち込んでるの?」

 と私に尋ねました。


「ああ…私のお洋服。それに高級車。あと、高級料理…」


「えーっとですね。分かりやすく言うと、もう彼女たちは贅沢な暮らしを送れなくなるみたいですね。」


「ふーん。そうなんだ。」


 セルフィさんと違って至って冷静なアンセルさん。まあ、そうですよね。贅沢三昧だったのは彼女たちだけなのですから。贅沢な暮らしを送れなくなるからと言って、彼女にとっては何も変わりないわけですし。


 アンセルさんは今、何を思っているのでしょうか?


 ざまあみろと思っているのでしょうか?はたまた、あんな酷いことを言われたのにも関わらず、彼女に同情してあげてるのでしょうか?


 私は赤の他人なので、彼女の心情なんて分かりませんし、知りたいとも思いません。


 しかも私はもうすぐこの家を出て行きます。だから、彼らのことなんて知ったこっちゃありませんしね。


 膝から崩れ落ち、絶望している彼女の元に、アンセルさんはゆっくりと歩み寄ります。


「お姉ちゃん。これ食べる?」 


 そう言って彼女が差し出したのは、10円で買える『うめー棒』でした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る