第22話 ~Side椎野視点~ (と、加古視点)

 ――王宮。


 カインを一望できる城は都の中央に鎮座してる。


 中央の塔と周囲の小塔含めて九本建てられてある。

 キウイ御前が支配してた名残なのか、中心に陣取った背の高い塔には、四体のドラゴンの像が宮殿を囲うようにして見上げていて特別感が漂ってる。


 中央塔の一室――ここは瑠香ちゃんの執務室、女王の間。


「椎野。よく来たわね」


 スクールカーディガンのポケットに手を突っ込んで、瑠香ちゃんはいつも通り高飛車で私を迎えてくれた。

 傍らには『サイドキック』の一人の茜ちゃんが、しっかりと瑠香ちゃんに警護してる。


「うん……。ごめんね、報告が遅れて」


「いいわ。加古に操られてたんだって? あんな雑魚スキルに?」


「違うよ! みんなそうやって油断して負けてるの! 加古君のスキルは弱くない。人の物も、心も、権利もすべて剥ぎ取って自分の所有物に変えてしまうの!」


 私の切迫した態度に、瑠香ちゃんも茜ちゃんも少し顔色を変えた。

 自分の知ってる加古君じゃない。そう言いたげにだった。


「……椎野の言ってるのは事実。カガリも身をもって体感した」


 カガリさんもフォローしてくれた。

 よかった! 私だけでは瑠香ちゃんを説得するのは力不足だったから!


「椎野。加古のスキルを改めて教えて?」


 女王様がご所望だ。ここをしくじれない。

 私は必死に頭を巡らせて、加古君のスキルの特性を思い出す。


「……まず、加古君が触れたものは自分の所有物に変わるの」


「あんたが加古にいいようにされてたのも、そのスキルね?」


「……たぶん、そう!」


 さすが瑠香ちゃんは頭の回転が速い。


「そして、盗んだ物を第三者に与える事もできる。さらには触れてなくても発動できるみたいで、それは確か……『等価交換』が条件だったよ!」 


 触れてなくても発動できる。

 凶悪なスキルなのに、リスクを軽減した派生スキルに瑠香ちゃんも訝しんでた。


「椎野。加古の目的は私たち、クラスメイト全員への復讐なんだったけ?」


 私は力強く頷いた。


「女子たちは全員自分の奴隷にして【ハーレム王国】を再建するんだって!」


 まるで女の敵。

 現実世界では地味目で、生徒同士の交流も少なめ。

 でも優しくて、話しかければ気さくに返してくれる。


 瑠香ちゃん達にはない、分け隔てのない人格が素敵だったのに……。


「!」


 私は鋭い視線を感じた。

 瑠香ちゃんだった。


「で、いつから加古のスキルから逃れられたの?」


「それは……よく、わからない。気づいたら自分の意思で動けるようになってた。縛りが弱まったって感じ! だからすぐに報告できたんだよ!」


 瑠香ちゃんの洞察力は天性のもの。

 スキルではない。

 なんか、人の心を読めてしまうようで、ウソ偽りが通用しない。


「……(ごくり)!」


 緊張が走る。

 全て真実を打ち明けた。

 嘘もない、偽りもない、やましさもない。


 私の心も肉体も、女王のものだから――

 

「……」


 不意に瑠香ちゃんは視線を外した。

 組んでた腕もほどいて私に迫る。


「信じてあげる」


 私はへなへなと、体の力が抜け落ちた。

 よかった。信じてもらえた。


「あんたは私の忠実なしもべだしね?」


 瑠香ちゃんの手が私のアゴに触れると、くいっと持ち上げられる。

 なすがままに私は動かされた。


「【女傑ヒロインず】の正統派美少女ヒロイン。椎野羚亜。あなたは紛れもなく私の味方ね」


 どうやら女王の審判は、私の完全な潔白で決着したようだ。


「茜」


 瑠香ちゃんは傍らにいた『サイドキック』の茜ちゃんを呼んだ。


「加古を封じてきて」


「いいの~? るかちを護衛しなくて~?」


 茜ちゃんは瑠香ちゃんの鉄壁の護衛の一人。

 加古君の『スキル』をネタバレしたから、瑠香ちゃんのそばから離れる事を躊躇してるみたい。


「るかちの『魔眼』を盗みに来るかもよ~?」


「ありがと、茜。でも警護は不要よ」


 瑠香ちゃんは足を組んで椅子のふんぞり返ると、


「加古の『スキル』は把握したわ。だから先手を打つのよ。茜の『スキル』なら加古を完全に封じられる」


「確かにね~」


「私に近づくことさえ許さないわ」

 

 瑠香ちゃんは絶対的な自信だった。

 茜ちゃんの『スキル』で決着をつけたいんだ。


「それに……」


 瑠香ちゃんは視線をそっと外した。


「椎野にお陰で『魔王』を捕まえれたしね」


 女王の間の巨大な柱に、鎖で厳重に縛り付けられたキウイ御前の姿があった。

 キウイ御前は恨めしい顔で私を見る。


「小娘……。加古を裏切ったな……!!!」


 キウイ御前は加古君に忠実。

 でも、私とは何かが違う。

 キウイ御前は加古君のスキルで操作されてない……。


 本当に加古君に心を奪われてるんだ――




 ~Side加古~


 ――その頃、新聞会社『天スキャ』。


 密談も終わって、谷さんの『転送スキル』でギルドへ帰るところだった。


「加古! 本当に裏切り者は野放しで良いんだな!!?」


 黒田君が再三、警告を鳴らした。

 

「うん。……大丈夫だって!」


 親友の心遣いをありがたく受け取っておくよ。

 僕は鼻歌混じりで返す。



「僕にもがあるんだからさ♪」


 




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『盗む』スキルで無双🤑!~クラス転移した僕を、雑魚アイテム収集スキルだとパーティから追放しただろ? ……もう遅い。僕を破滅へ追い込んだ君たち全員の尊厳破壊開始ぃいい!!~ ぬがちん @ryo1412

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