ため息

@haru_tomo

ため息

さらあと、風が僕の頬を撫でるように過ぎ去っていく。夕焼け頃の風は自分の頭を冷やしてくれるような、思考をクリアにしてくれるような、そんな心地よさがある。僕はこの風、この景色、この匂いが好きだ。


「はあ」

どうしてまたこの場所に立っているのか、自分でも分からない。そうして僕は1度ため息をついて、イヤホンを耳に突っ込みいつも通り帰路に着く。

これは僕のルーティンと言っていいだろう。

1日の中で特別嫌なことがあったわけではない、特別悲しいことがあったわけでもない。そう何も特別なことはない。誰と比較しても変わり映えのない日常。素晴らしいことじゃないか。

それでも、心が言いようのない消化不良を起こしてしまっている。何が不安なのだろう。分からない。分からない。分からない。


「はあ」

本日2度目のため息。

頭の中の世界は簡単だ。全て自分の思い通りに動いてくれる。いつだって僕は大活躍、周りのみんなからは歓声があがり、まるでスーパーヒーロー。しかしこれは僕の頭の中だけ、当たり前だが現実はそうじゃない。

現実もこうならいいのにと、何度思ったことだろう。何のためにこの思い通りにならない世界を生きているのだろう。神様というものが存在するのなら、なぜこの世に僕を産み落とした。そもそも誰がこんな世界を作った。というかなんで宇宙なんてものが出来上がったんだ。

そんなことを考えていると、段々と怒りが湧いてきた。


「はあ」

しょうもな。これが今日の僕の答えである。ほんの数秒前まで、得体の知れない不安を感じ、あらゆる方面に怒りを覚えていたのになんて気分屋な人間なんだろう。そんな自分が好きだ。

明日も明後日もこれからも、思い通りにならない世界と戦ってやろう。自分というたった1つの武器を使って理想の未来に近づけてみせようじゃないか。

「未来はもっと眩しいかもしれない」流れ込む歌詞も僕の歩幅を大きくしてくれる。


今日はいつもと違う道を使って帰ろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ため息 @haru_tomo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ