「ー3ー」
*Re-start>>>「闘機場中央 ー開始地点ー」
カルメンと敵機が障害物を挟んで、開始位置に戻った。
──You have control.
システムから操縦の主導権を返される。再び、カウントダウンがスタートする。
(相手はもう消極的な行動は出来ない。事実上、後退を封じられた状態で待ち受けるしかない)
……累積による厳罰付きの反則負けは単なる一敗よりもリスクが高い。
また、そうでなければつまらない行為が正当化され、横行し、興行が冷めたものになってしまう。「勝敗以上にエンターテインメントに寄りすぎている」と不満の声もあるが、システムはその手の抗議に対して一切聞く耳を持たなかった。
──これが最後の攻防になる。
カウントダウンが終わっても障害物を挟んで互いのマーキングは微動だにしない。
再始動は静かなものだ。操縦桿をじわりと倒し、ゆっくりと障害物の側へ密着するように。それに
「……ッ!」
出現を待ち切れず、フライング気味に35ミリ機関砲が火を噴いた!
瞬く間に多数の弾痕が地面を
「焦りすぎだな」
気持ちは分かる──心の中で付け加える。早く楽になりたいのだろう。
逸る気持ちを抑えきれず、それが形として出てきてしまった。
精神的優位は未だこちらにある、演技としたら大したものだ。
操縦桿を外へ倒し、それに合わせてアクセルを踏む!
ボロボロになってしまった耐火マントを
幾つかの弾が掠め、操縦桿を即座に反対へ切り返して障害物の裏へ!
……機関砲が撃ち方を止め、目視で確認したならもう一度、同じように飛び出る!
当然、単調な反復横跳びは読まれている、機関砲の恰好の的だが──
(それは折り込み済みだ……!)
切り返して戻るまでに、どれほどのダメージを受けただろうか?
それは分からない。決着がつかなければ、それでいい。
……重大な損傷を受けて、物陰に引っ込んだ。
間髪入れず、障害物を乗り越えて襲い掛かろうという
──勝った。勝てる。
その後に
だがしかし、積み上げられたコンテナを飛び越えて姿を現した彼女は既に人の手を離れて動いていた。機関砲の一斉射撃を嘲笑うかのように空中で華麗に回避し、尚も着地するまで数度左右に切り返しながら、狙いを絞らせない!
──カルメンが走る!
……機関砲を諦めて散弾銃を構えようとするが、切り替えがもどかしい。
ロックオンを察知してカルメンがステップする。距離20、下手な発砲は致命的だ。
この一発を外せば、打つ手がない。仕留める。仕留めるんだ。
引き付けて、仕留める──!
──距離5、彼女からのロックオンアラーム。引き金を引く。
『You have control.』
──無情の電子音声が聞こえた。アクセルをベタ踏み、戦況に構わず視点を上空に飛ばし、操縦桿のボタンを押し続けて、リズミカルに右手デバイスの「アクション」ボタンを連打する。条件反射のコマンド入力で切り札を切った。
……実際の闘機場では、2機が停止したのは一瞬だけ。
カルメンが踏み込んで撃たれるよりも先に左手パイルバンカー発射口を機人戦車の胸部、装甲の上からクリティカルボックスに押し当てて炸薬に点火した。その一撃でゲームセットとなる──筈、だった。
しかし、タンクのパイロットは土壇場で撃つのではなく、旋回する事を選択した。
或いはロックオンで捉え切れず、ノーロックの旋回動作で捕捉しようとした矢先の
怪我の功名かもしれない。とにかく、直撃は避けた。
そして、互いが硬直から解放された次の瞬間──カルメンはまるで生きているかのように動いた!
その場で跳び上がると猫の後ろ脚のように限界まで折り畳み、その体勢で虎の子の足裏スラスターを噴射、メインスラスターと合わせた推進力で突き刺さった金属杭を引き抜くと、大きく宙返りをして──
「パイルバンカー、
『パイルバンカーを再装填します』
……これは賭けだ。出来る時もあれば、出来ない時もある。
着地の衝撃に合わせて外に飛び出した金属杭をボックスへ引っ込めるのだが、地盤次第では地面に深く突き刺さり、その時は潔く切り離して捨てざるを得ない。しかもそうして再装填に成功したとしても完動の保証はなく……所詮は使い捨ての再利用、苦し紛れの裏技でしかない。
距離30──!
派手な着地と共に金属杭は押し込まれ……やはり完全とはいかず、先端のみ射出口から飛び出している。だが、許容範囲内だ。
機関砲が狙いを定めるが、それよりも直進の方が速い!
あちらも早々に諦め、自動散弾銃を構える。最後の撃ち合いだ。
──当たれば勝ち。外せば負け。
外れない事を祈る博打ほど、つまらないものはない。博打は当たるから面白い。
詰め寄るまでの
こちらは堅実に胸に開いた風穴目掛けて、短機関銃を乱射した。
……これで、ゲームセットだ。向こうにとってはゲームオーバーだが。
*戦闘終了>>>「操縦筐体」
戦闘のストレスから解放されて、ようやく一息付けた。
駆け引きで勝ったような時は特に疲れる。先読みを通して撃ち勝った時などは逆に清清しくもあるのだが。
最後の攻防──コマンド入力による「
パイルバンカーの再使用は全く頭になかった。
相手の読みを少しでもずらしたかった、それだけの意図でしかない。
──距離30。最後の直進は人の手によるものだったにも関わらず、あちらは早々に諦めて至近距離で備えた。
強烈に印象付けた機械による挙動が、最後まで相手の思考を縛り付けた。
確かに張り付くまでの挙動は機械が鋭いが、至近距離でのせめぎ合いは人間の方が粘り強い。
誤解か、混乱か。いずれにせよ、最後の一発を
そして、とどめは弾丸で堅実に削りに行った。直撃は避けられたとはいえ、装甲はおろか内部まで貫通しているのだ。
余程、運が悪くない限りは仕留められるだろうという目算はあった。……それでも駄目なら? 僅かに飛び出した金属杭で殴りにいっただろう。
残念ながら腰の
御守りは所詮、御守りに過ぎない。
*
『お疲れ様でした。また会える日を楽しみにしています』
「よしてくれ。縁起でもない」
『戦場だけが居場所ではないでしょう?』
「……それは、そうだな」
操縦用のデバイスを片付けながら答える。
群にして個、個にして群というのが
触れ合う機会が戦場に限定されていた、今までの方が異常なんだろう。
「……次に会うなら、宇宙がいいな」
ぼそりと呟いて会話を打ち切った。荷物をまとめて、筐体から出ようとする──
『よろしいでしょう。その時にはロボット工学の原則を
無人機同士でしか戦闘出来ない元凶となった
戦闘機は無人だが、それ以外はその限りではない──
<終>
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