sing loudly エール

げんまい茶

背番号2のキミへ

蒸した猛暑の青空のもと。

夏の陽が降り注ぐスタンドには、多くの人が集まっていた。

ウゥーっという音が耳をつん裂き、興奮に駆られる甲高い試合開始の音が鳴る。

それと同時に選手と審判団の「よろしくお願いします」という声が響くと、ブラスバンドの奏でる粗く、勢いのある演奏が球場内へ鳴り渡っていく。

その演奏と共に、審判の「プレイボール」の開幕の合図で投げ出された白球が、グラウンドを我が物顔で駆け抜けて、伸びのある綺麗なその直線が決まれば、「ストライクッ!」と力強い声に加え、球場正面に位置する電光掲示板に149キロと表示され、球場がワッと沸く。

激しい試合展開が続く中、0が8つ並ぶ電光掲示板の攻守が、人知れず入れ替わった。

───9回の裏。───

場内に響き渡るアナウンスの声。

攻撃に入る直前の円陣から「集中ッ!」という声がスタンドに反響し、その声に拍手と声援が送られる。

ツーアウト、スリーボール、ツーストライクの場面。

観客の視線は、フルカウントのランプが並んだ電光掲示板と塁間とを行き来する。

一塁と二塁には二人の選手が立っており、相手との点差は2点。

生温い風が肌を掠める中、打席には背番号2を背負う4番の彼が立っている。


緊迫する空気の中、ブラスバンドの演奏が止み、スタンドに静寂が訪れる。

それと同時に球場内を包み込んだのは、大きく吸った息で肺が膨らみ、息を止め、手持ちのメガホンから聴こえる高らかで澄んだ歌声だった。


〜♫ 〜♪       ~♫ ~♪

      〜♫ 〜♪        ~♫ ~♪


力強く、気持ちを、打席に立つ彼に向けて込める。

わたしの歌声を好きだと言ってくれた彼に向けて。

声を出して口の中がカラカラになっていく。

でも、喉は開いていて、人生の中で一番、綺麗に響いている気がする。


打てッ

打てッ

ここで決めろッ!!!


目線の先にいる幼馴染の彼は、一つこちらを見たような素振りして、すぐにヘルメットを触った。

バットが右へ左へと規則正しく動かされ、打席に入り、バットが構えられる。

目線の先には、背番号1を背中に抱えた、相手ピッチャーが立っている。

そこから彼の目がピッチャーから外される事はない。

きっと、いま彼は、次どんな球が来るのかを考えている。

ストレートか、カーブか、思考は止まるところを知らずに脳内を駆け巡っているのだろう。

爽やかな汗が首筋を伝ってぽたぽたと垂れていく。

この点差を、諦めていないというのがスタンドにいる私にもひしひしと感じ取れた。


18.44m離れたマウンドから白球が投げ込まれる。

一閃、彼が振り翳す。

それとほぼ同時にカッキーンッという軽快な音が球場内に鳴り響いた───。


風が吹く。

突風のその爽快な風が、火照った肌を撫でていく。


ここからが、彼らの青春時代だ。

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