第9話 立派な騎士になるために

俺は騎士に憧れていた。

立派な式典で、王都で、民の前で、皆に喜ばれる父が好きだった。

だから俺は騎士に憧れた。

父のような民を護る騎士に。


 「ありがとう……。民を救う最高の騎士様……。」


 あの日の感触を未だに忘れない。

忘れることができない。

人を刺したあの重い感触……。

あれが人を殺めるということ。


 あれから数日後。

俺は父に呼び出された。

今日は剣の稽古だ。


 「お父さん……。俺は……。」

 「そうか……。」

 「……。」

 「甘えるな!。」

 「っ!?。」

 「お前は騎士に、最高の騎士になる。とそう私に言った。」

 「そう……です……。」

 「ならば、たかが人一人殺めた程度でへこたれるな!。」 

 「……!?。」


 確かにそうだ。

けど、知らなかった。

人と戦うのがこんなにも重く、辛いものだと……。


 「本当に最高の騎士になりたいのなら、剣を取れ。そしてその剣で護れる力を身につけろ。そうすれば答えはわかるはずだ。」


 俺は負けた……。

自分の志に……。

あいつの剣技に……。

それから……。


 「イリヤ。お前は最高の騎士に。民を護る立派な騎士になりたいか?。」

 「できればそうありたいです……。」

 「なら私達は敵同士だ。」

 「なんで!?。」

 「私が護るべき存在王であり、この国の未来だ。たとえ民が絶えようと王の血だけは絶えさせてはいけない。そのためならたとえ民であろうと切り捨てる。」

 「……。」

 「お前はどうしたい?。イリヤ。」


 俺は……。

俺は!。


 「俺は……。民を護る。そのためならたとえ王を倒しても……。っ!?。」


 そうか……。

だからあいつは……。


 「答えは……見つかったようだな。」

 「はい。だからお願いします。親父。」

 「おお。いい顔だ。」


 そう。

だから俺は、強くなる。

たとえ王がいなくなっても民を護れるように。

俺は。




―――――



 稽古の帰り。

俺は何故かクラウディア王女様に会った。

いや、待ち構えていた。


 「なんのようですか?。王女様。」

 「今日はあなたにお願いがあって来たの。」


 お願い。

なんの?。


 「あなたのその剣でどうかお姉様を、フィーア姉様をどうか守って欲しい。」 

 「何?。」


 どういうことだ。

まるで意味がわからない。


 「意味がわからないのもわかるわ。それでもお願いするの。お姉様はこの国に必要なの。」

 「どうしてだ。」

 「お姉様はこんな形になったけれど、平民の王女様なの。わかるでしょ。お姉様は希望になるの。良くも悪くも。」

 「それって。」

 「だから貴族の悪意にも狙われる。お姉様を悪役に仕立てて、自分たちの都合のいい国にすることも。」

 「……。」

 「たとえそれが民よって起きた革命でも。」

 「その悪意から俺が守れと。」

 「話が早くて助かるわ。そう。これは民を護るために必要なの。それにあなた、お姉様に惚れてるでしょ。」

 「なっ!?。」

 「ふふ。あなた、お姉様の剣技に見惚れてたのよね。ずっと見ていたいのなら守りなさい。それが民を護ることに繋がるのだから……。」


 そう言って、クラウディア王女様は消えていった。

最初からそこにいなかったように。

民を護るために王を守るか……。

 あの時、あいつは俺に「ありがとう。」と言った。

その意味は今もわからない。

それでも俺はなってみせる。

立派な騎士に。

あいつが自分から死を選ぶことも無いように。

そして……、あいつの傍であいつの美しい剣を観るために。

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【打ち切り完結】死に戻り闇属性の偽王女は未来を諦めた アイズカノン @iscanon

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