第8話 最低最悪の王女と自称王子騎士の決闘ごっこ

 私は王宮の中庭でイリヤと対面している。

彼のプライドを賭けた決闘ごっこ。

真剣を使うけれど。

両者とも護身の加護を持つ魔道具を使っての茶番決闘。


 「さぁ、始めましょうか。」

 「調子に乗るな!。平民。」


 振り下ろされた審判の合図とともにこの茶番劇は幕を開いた。

彼の攻撃は良くも悪くも規範通り。

入念に鍛錬を積んでいる。

積んでいるが、少し単調すぎる。

それもそうか。

彼は幼いながら、親を除く全ての騎士団と1v1の決闘をして全勝しているのだから。

そして神童ともてはやされて、城下町ではガラの悪い子ども引き連れている大将様。

まあ成長して愛する人ができた時の彼の剣筋は本当に素晴らしく、美しい……。

けどね。


 ガンッ!。

 「何!?。」


 あなたにはここで本気になって貰わないと困るの。

あなたの強さを証明してもらわないと、私がいなくなった後困るもの。


 「調子に乗るなよお前!。」


 そう。できるじゃない。

その剣筋。私を打ち倒し時の剣筋。

あなたには才能がある。

この最低最悪の王女を倒す程の力のある才能が。

だからね……。


 ぐさぁ……。

 「なっ……。」


 その力で圧政に苦しむ民を救って。

王ではなく、民を守る騎士として。

あなたは強くないと。

これはその序章。

初めて民のために国に忠誠を誓った騎士として。

それこそあなたの目指すべき騎士なのだから。

ね……。


 ぎゅうぅ……。

 「ありがとう……。民を救う最高の騎士様……。」

 「っ!?……。」


 あぁ……。

これで……。

未来も……。

これでいいの……。

いいの…………。

…………。

……。



――――



――――――――――――――――――――


 ……。

…………。

これは……。

そうか……。

これはあの時の……。

イリヤがクラウディアのために私を打ち倒した時の……。


 「なんで最後避けなかったですか……?。」

 「それは……あなたの剣があまりに美しかったから、思わず見惚れてしまったのよ……。」

 「……。」

 「泣かないで……。」

 「だってお前はいつも民のために……。」

 「でも、民を騙した最低最悪の王女よ……。こうなるのは必然よ……。」

 「それはあの貴族どもがお前に全てを擦り付けたから……。」 

 「けど、民はそう思ってないわ……。」

 「だからって……。」

 「あなたは民のために戦った……。たとえそれが、嘘と欺瞞に満ちたものだったとしても……。」

 「っ……。」

 「そんな顔しないの……。せっかくのかわいい顔が台無しよ……。」

 「ぅぅ……。」

 「あなたはしっかりやった……。それは私が保証する……。だから誇りに思いなさい……。」

 「……。」

 「それからね……。ありがとうね……。私を殺してくれて……。」

 「うあぁぁぁぁ……。」


 そして私はまたあの部屋で目覚めた……。

この頃はまだいくらかやり直せる。

未来を変えられると思ってた。

そんなことないのに。

本当。馬鹿な私。

なんで今更こんなものを見ているのだろうか……。

もうだいぶ昔に終わったことなのに……。

…………。

……。


――――――――――――――――――――



――――――



 あぁ。

またここか……。

あれか死に戻りに至っていない……。

どうして今更……。

まあいいか……。

まだ可能性が下がった訳じゃない。

この先もずっと待ち構えているのだから。

いつでもいらっしゃい。

私はいつでも歓迎しているから。

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