第5話 読専論 『ファイアーボール』の回転強化計画

 初代の仮面ライダーを見たことはあるだろうか。

 最近『シン・仮面ライダー』が公開されたことにより、予習や復習、もしくは新たな興味で見た人もいるかもしれない。


 私は流石に初代の世代ではないが、子供のころ夏休みに再放送されており、それをビデオに録画して何度も繰り返し見たものである。

 当時も、そして今思い返してみても、割とホラーな作品だった。人が溶けて消滅したりした思い出。


 そんな初代仮面ライダーの必殺技に『電光ライダーキック』というのがあるのだが、当時幼かった私にはいまいち理解できない代物だった。宙返りが加わっただけのライダーキックにしか見えないのに、何故か通常より威力が増し、強敵『トカゲロン』を倒したのだ。

 大人になってから調べてみると、あの技は宙返り等をすることで脚部に通常以上のパワーを集中させ、強力なキックを可能とするものだったらしい。

 しかし、当時の私にそれを映像から読み解く能力は無かった。

 だから単純にこう思ったのだ。

 『なんかわからんけど、回転したから強くなって勝ったんだ!』と。


 実際、『回転すればなんとかなる理論』はよくある話だ。

 巨大ロボのパンチは回転するほど強力になる。ただ投げる技より、ぐるぐる回る投げ技の方が与えるダメージは大きくなる。

 M78星雲の巨人たちなんてその最たるもの。『回転は全てを解決する』と言わんばかりに、とりあえず回転する。そして怪獣は倒せる。事態は解決する。うむ、何の問題もない。




 そんな皆に愛される『回転』は異世界転生ものでも活躍する。

 特によく見かけるのが、『回転による射程距離や威力の向上』であろう。


 例えば、『ファイアーボール』という魔法(魔術)があったとする。

 異世界の既存のファイアーボールは、射程が短かったり威力が小さかったりして使い勝手が悪い。

 そこで主人公が前世の知識でファイアーボールに回転を加えて改良。『オレ、なんかしちゃいました?』をかましていくのである。


 しかし、本当に回転で射程距離や威力は向上するのだろうか。

 『射程距離』と『威力』の二つに分けて考えていきたい。




 まず、『回転で射程距離が向上』の根拠は『ジャイロ効果』にあると思われる。

 『ジャイロ効果』とは、きわめて簡潔に言うなら『高速回転するものは安定する』というものらしい。

 例えば、停止していれば絶対に立つはずの無いコマも、回転させれば中心を軸として立って回る。また自転車も、走り始めはフラフラするが勢い良くタイヤが回転すると安定する。回ることで軸に対してのブレが減るのだ。


 この『ジャイロ効果』で最も有名なもののひとつが、『銃』になる。

 多くの銃の内部には『ライフリング』呼ばれる溝が掘ってあり、それによって銃弾に高速回転を与えられる。

 無回転では空気抵抗などによりブレて軌道の定まりにくい銃弾が、その回転による『ジャイロ効果』で直進軌道が安定し、狙い通りまっすぐ飛ぶことで命中率が上がるのだという。


 なるほど、『ジャイロ効果』についてはなんとなくわかった。命中率が上がるのならばファイアーボールに対し有用だ。早速採用しよう。

 ――と思いたいが、果たしてそんな簡単な話なのだろうか。いいこと尽くめに思えるが、マイナス点は無いのだろうか。


 少し想像してみてほしい。

 同じ力で押し出された2種類の銃弾。

 片方は『ライフリング』という溝で回転が付き『ジャイロ効果あり』のもの。

 もう片方は『ライフリング』が無く無回転な『ジャイロ効果なし』のもの。

 この二つ、もしかして単純な飛距離では『ジャイロ効果なし』の方が飛ぶのではないか?

 なぜなら前者は、『ライフリング』という抵抗や『回転』でエネルギーを余分に消費しているからである。

 そして実際にネットで調べてみると、『飛距離に限ってであれば、無回転の方が遠くまで飛ぶ』『回転にエネルギーを使う分、弾速は劣る』という話をいくつか見受けられた。

 ジャイロ効果で安定性を得る代わりに、失っているものもあるのである。


 しかし、それでもなお銃の多くにライフリングが刻まれ、銃弾が回転しているのはなぜなのか。

 それは、簡潔に言えば『マイナスよりプラスが大きい』からである。


 先ほど書いたように、無回転の銃弾は『飛距離では勝る』かもしれない。

 しかし、最大飛距離の『的に当たる』わけではないのだ。

 むしろ当たらない。空気抵抗の影響により遠ければ遠いほど命中率がみるみる下がるのだという。命中率がクソ雑魚なのである。

 それに比べて回転で『ジャイロ効果』を得た銃弾は、『飛距離こそ劣る』かもしれない。

 だが、あまりブレずに安定して飛び、的に対する命中率が無回転に比べて非常に高いのだという。

 結局のところ、有効射程距離(必要とされる殺傷力や命中率を維持可能な距離)において、回転をかけた方が無回転よりはるかに優れているのだ。

 よって、多くの銃弾には回転による『ジャイロ効果』が加えられているのである。

 より遠くに飛ぶだけじゃダメです。




 なるほど、『回転で射程距離が改良』は分かった。

 では『回転で威力が改良』の根拠はなんだろうか。


 これについても調べてみたが、なかなかに難しい。

 ジャイロ効果で書いたように、回転している方は『回転にエネルギーを余分に使っている』状態なので、無回転よりも飛距離や弾速自体は劣るらしい。

 であれば、無回転の方が威力で勝りそうなものである。まあ、所詮は『当たれば』の話だし、近距離・遠距離で変わるのかもしれない。

 さらに調べると、銃弾の種類によっては『回転することにより与えるダメージが増す』ものもあるという。ドリル的な感じで対象をえぐるのだろうか。怖い。

 このように『威力』と言っても影響を与える要素が多く、そもそも『何をもって威力とするか』という定義の話にすらなりそうだ。


 そこで私の出した結論。

 『回転で威力が向上』は『ものや状況に依る』である。

 杓子定規に『回転すればええんや!』というわけではなさそうだ。

 回転した方が良い物や状況もあれば、回転する必要が無かったり、逆に回転が無駄になったりすることもありえる。臨機応変に柔軟な対応をしろ。そういうことである。

 うーん、投げ出した感半端ない。




 さて、気を取り直して『ファイアーボール』を改良しようではないか。

 

 『ジャイロ効果』によって有効射程距離を向上させるのは好感触だった。

 しかし、ファイアーボールって元々そんなブレるものなのか? 命中率は低いのか? 空気抵抗を受けるのか?

 そもそもこの魔法(魔術)によるファイアーボール、どういう仕組みで飛ぶんだ?  撃った私に反動が無いんだが、どうなってるんだ?


 ま、まあいい。

 とりあえず回転加えておけば、安定する感じだろう。

 もしかしたら威力は落ちるかもしれないが、きっと有効射程距離は伸びたはずだ……。よし、改良成功だな。



 次に回転によって威力の向上だ。

 こう、ファイアーボールが相手に着弾した時、回転で肉をえぐる感じにするのだ。ドリルみたいに岩とかも破壊しやすくなるだろう。これは威力アップ間違いない。

 ――あれ? ファイアーボールって何を飛ばしてるんだ? 銃弾みたいな物体が火の玉の中にあるのか? いったい何が燃えてるんだ? 魔力の塊的な何かか? それって質量あるのか? 回転させて大丈夫か? 火、消えない?

 そもそも氷や石、水などの物体ならまだしも、『火』を飛ばすってなんだ?

 ファイアーボールって……なんだ? 




 こうして私の『ファイアーボールを回転で強化する計画』は頓挫するのであった。

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