第16話 最強の三兄弟
「公爵様。お話がございます」
「後にしろ。今は悪魔を――」
「その悪魔たちを効率よく祓えると言ったらどうですか?」
ピリついた公爵様の空気を当てられて一歩退きたくなるが、私は真っ直ぐ見つめ返して言う。
「私には悪魔を引き寄せる体質があります。今はこの指輪で抑えていますが、指輪を外せば悪魔を引き寄せられます。……皆さんが遠方に散らばるより、よっぽど効率的だと思いませんか?」
「……何?」
俄には信じがたい話だろう。
公爵様が眉根をピクリと動かして、こちらを睨んできても仕方ない。
「……っこのことは、ルーカス様もご存知です」
「! ルーカス?」
私一人の言い分で信じてもらえないなら、ルーカス様の名前を出すしかない。
……ごめんなさい、ルーカス様。
公爵様がルーカス様を見ると、ルーカス様は私の話を後押ししてくれた。
「メリナの言うことは本当です。彼女には悪魔を引き寄せる体質があります。ただ、どの範囲まで有効かは調べたことがありません。一旦外で彼女に指輪を外してもらい、悪魔を引き寄せられるだけ引き寄せて集まってきた奴はここで祓うというのはどうですか? そして、遠すぎて体質が効かないところにいる悪魔を見極め、そちらには必要なだけの祓魔師を送るのです」
確かに、どこまでの悪魔を引き寄せられるかは試したことがない。
ルーカス様はそのこともふまえて、公爵様に話してくれた。
「……本当なのか」
「引き寄せ体質であることは、私が保証します」
「ふむ……」
信頼のおける息子から太鼓判を押された話を、どう処理すべきか悩ましそうな公爵様。
けれど、そう長く悩んでいる暇もない。
「……分かった。ではルーカス。メリナ嬢を連れて外へ。中庭なら場所が開けているから集まった悪魔を祓うのにも丁度良いだろう」
「はい」
「それからヨナス、イザーク。お前たちも一緒に行っておけ」
「はい、父上」
「うまくいかなかった時のために、一応こちらでも祓魔師協会と連絡を取って、この後の動きを会話しておく。息子たち以外は一旦ここで待機してくれ。悪魔に動きがあり次第、指示を出す」
ルーカス様たち三兄弟はしっかりと頷き、そして私はルーカス様に手を引かれて中庭に向かった。
「行くぞメリナ」
「はい!」
中庭に到着し、私は指輪に手をかける。
そのとき、自分の指が震えていることに気づいた。
あんな風に威勢よく言ったは良いものの、恐怖感はあるらしい。これまで引き寄せたことのない数の悪魔を引き寄せるのだ。当たり前と言えば当たり前だけど、自分でも気付いてなかった。
すると、私の震えに気づいたルーカス様が、隣から優しく声を掛けてくれた。
「安心しろ。どんなに悪魔が寄ってきても俺が全部祓ってやる」
「ルーカス様……」
頼もしい一言。
彼が隣にいるだけで安心できる。
……うん。今の一言で恐怖は吹き飛んだ。
私はフッと小さく息を吐き、そしてスポンと指輪を外した。外した指輪は無くさないよう、拳でぎゅっと握っておく。
サワサワと、中庭にある木々たちが風に揺られて心地よい音を出している。
一体何体の悪魔が集まるかはまだ分からないが、少なくともここが祓魔の戦場となることは確実なのだ。だから、この静けさはさながら嵐の前兆とも言える。
一度は落ち着かせられていた気持ちも、どくんどくんと心臓が早鐘を打ち始めている。
そっと瞼を閉じ、暗闇を感じてみる。
外は夜なので暗いが、月明かりのおかげで周りが見えないほどではない。
けれどここに悪魔が集まってきたら……。
黒い靄でできた悪魔たちは、月も覆い隠してこの場に漆黒の闇をもたらすだろう。
頭の中で想像しながら、心の中で悪魔を呼ぶ。
……こい。こい。こい。
引き寄せ体質はあくまで体質。
異能みたいに自分の意思で操れるものではないから気持ちを込めてもしょうがないのだが、どうしても願わずにはいられない。
……遠くにいる悪魔もみんな来て。お願い……。
指輪を握った手をもう片方の手で握り締め、空に願った次の瞬間、空気が重くなる。
ずしんと肩の下がる感じがして、背中に悪寒も走った。
……この感覚は……。
「お出ましだな」
「……はい。そのようですね」
ルーカス様の一言で目を開き、私の予想は確信に変わる。
悪魔が来てくれたのだ。
私に引き寄せられて……うじゃうじゃと。
先ほどまで頭上にいた月が見る影もなく、辺り一帯が黒に染まった不思議な景色。
「イザーク、ルーカス。油断するなよ」
「はい!」
「……はい」
声をかけたのはヨナス様だった。
二人の弟を心配してか、それとも士気を高めようとしてか。
どちらにせよ、普段は仲が悪いルーカス様の名前も呼んだところは、弟を気にかける長兄らしいなあと思った。
返事をしたルーカス様も、慣れない声をかけられてむずがゆそうだ。
三兄弟は一斉に祓魔具を構えて、悪魔に向かって行った。
ルーカス様は言わずもがな、緑炎に覆われた剣を携えて。
それから、『
そして、『
そんな三者三様の戦い方を見せる三兄弟。
私はただひたすらに三人とも無事でいられるように後方から祈っていた。
程なくして、公爵様の命を受けた他の祓魔師さんたちもここに駆けつけて、三兄弟に加勢した。
こうなるともう心配する気持ちは減り、むしろ目の前で繰り広げられる圧巻な祓魔シーンに心を奪われていくしかない。
……これ、帰ったら絵に描いて残しておきたいな。
こんなにも圧巻なシーンを間近で見れる機会はそうそうないだろう。それに私は、半年後にはこの一族から外れる身。
だからこそ今見たものを絵に残しておきたいと、私は頭の中でそんなことを考えていたのだった。
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