第11話 どうして異能が?
「待ってくださいルーカス様。私には異能なんて――」
「おっと。その前に人払いが必要だな」
ルーカス様の発言に反応しようとしたが、彼は冷静に扉の方へ向かって歩いて行き、ルーカス様の侍従さんと、いつの間にか戻ってきていた私の侍女と会話をした。
「悪いが、しばらく二人っきりにしてくれ。それから、今見聞きしたことは他言無用だ」
「承知しました」
「はい」
二人はルーカス様から命じられ、スッとその場から居なくなってしまった。
それを見届けて、ルーカス様は私と小鳥さんの方に戻ってきた。
「よし、これで話せるな。……鳥」
『え、僕?』
「お前の命はどのくらい保つんだ? 一時的なのか、それとも半永久なのか。もし分かるなら教えてほしい」
ルーカス様は小鳥さんを「鳥」と不躾に呼び付けて、改めて小鳥さんがどういう存在なのかを確認し始めた。
『どうだろう……。僕もさっきこの世に作られたばっかりだし。あ、でも本質は紙だから水とか火には弱いんじゃないかなあ』
「なるほど。じゃあかけてみるか」
『え!?!?』
そう言ってルーカス様が花瓶に入った水を小鳥さんにかけようとしたので、私は彼の腕を掴んで必死に止める。
「だ、だめです!」
「何でだ?」
「だってこの小鳥さん、自我があるようですし! もし本当に水をかけて死んでしまうなら悲しいです」
「絵から生まれた奴に生も死もないと思うけどな。……面倒だな」
ルーカス様は渋々ながら、一旦花瓶を置いてくれた。
『ありがとう主様〜』
すると、ルーカス様に怯えた小鳥さんが嬉し泣きしながら私の周りを旋回してきた。
どう接すれば良いかまだ分からないので若干困惑するものの、懐いてくれるのは嬉しい。
「じゃあどうする。この鳥で実験できないと異能の詳細が分からないままだぞ」
「っそれは……」
私が黙ってしまうと、ルーカス様はテーブルの上に私が描いた夜景の絵を見つけて、手に取った。
「この絵は何だ?」
「あ」
「これもメリナが描いたのか?」
「……はい。昨日の夜景です」
「ほう」
……それはどういう感想?
じーっと絵を見られ、ふと、私の絵がどう思われるのかというドキドキ感が蘇ってくる。
でも、こちらのドキドキも知らず、ルーカス様からは「ほう」以降の言葉が出てこなかった。
多分数分は待ったと思う。
さすがにドキドキも薄れてしまう。
『主様。あいつどうしたの?』
「さあ……」
待ちぼうけさせられた私は、小鳥さんと普通に会話を始めていた。
『でもすごいね主様。鳥の僕でも分かるよ。あの絵は芸術!』
「そ、そうかしら」
小鳥さんに褒められて照れてしまう。
初めて見る街を描いてみたけれど、うまく描けたと思って良いのだろうか。
『夜景には生物がいないから絵のままなのかな?』
「え……」
小鳥さんが放った一言は、核心を突いていたようだ。
突然ルーカス様はこちらを振り向き、「それだ!」と声を上げた。
私はびくりと肩をすくめ、小鳥さんも驚いて縮こまった。
「ルーカス様?」
「考えていたんだ。なぜその鳥は実体となり、こっちの美しい夜景はそのままなのか。絵に描いたものを具現化する異能なら、この部屋に街の景色がジオラマのように立体となって現れてもおかしくないだろう? でもこの夜景の絵にはそうなる気配がない。ならばその小鳥が言ったように、描いた生物だけが実体になるからだとすると? メリナの異能は絵に描いた生物へ命を与えるものという仮説が立てられると思わないか?」
ペラペラと早口のルーカス様に捲し立てられて、私はただ流し聞いておく。
……気のせいかな? 彼の目の輝きが増したような。
「まさかこんなにすごい異能があるとは――」
「あ、あのでも……」
暴走気味のルーカス様の言葉を遮り、気になる点を告げる。
「私は今までもたくさん絵を描いてきました。ですが、こんな変なことが起きたのは初めてです。確かに小鳥さんのことは異能以外では考えられないかもしれませんが、どうしていきなり……?」
本来異能は十二歳までに発現するもの。
多少遅れて発現することもあるだろうが、それでもせいぜい一年程度。十九歳で突然発現するなんてどの本でも読んだことがない。
しかも結婚早々というこんなタイミングで……。
「ああ。それなんだが」
ルーカス様は言い忘れていた、とあっけらかんと教えてくれた。
「メリナが住んでいた家を囲っていた結界石は、単なる結界石ではなかった。結界の中にあるものを抑え込む効果もあったんだ。だから、メリナは無能だと思い込んでいただけで、実際には普通に異能を持っていながら結界によって抑えつけられていただけというわけだ。それで、結界石の外に出てようやく異能が発現されたんだ」
「まさかそんなことが……?」
……なぜ、というのが先立つが、それはルーカス様に聞いても意味がないだろう。
ルーカス様の言う事が本当なのであれば、理由は恐らく叔父様に聞くべき話だ。ルーカス様に聞いてもしょうがない。むしろ困らせるだけな気もする。
「俺も知ったのはついさっきだ。信頼のおける奴に見てもらったから石の効果は間違いないだろう。……それで、だ」
「はい」
「異能があると分かった以上、異能測定を受けに行くか?」
「異能測定……」
名前は知ってはいるが、実際に何をするのかは知らない。
国民全員が十二歳から受ける通例行事。
家から出られなかったため通ってこなかった私が、今更測定を受けられるの?
想像もしていなかった。
私にこんな未来が待っているなんて。
「測定って、受けたらどうなりますか? ……例えば、最低の『F』ランクを取ってしまった場合とか」
私は最悪の想定をしてしまう。
アデナウアー家に嫁いだ女がもしも『F』判定を受けたら、ルーカス様の肩身が狭くならないだろうか?
いやまあ、それでも『無能』よりはマシかもしれないけれど。
「ははっ。何を言い出すかと思えば」
私は真剣なのに、ルーカス様に鼻で笑われる。
『主様を笑うな!』
「鳥は黙ってろ」
『なっ!!』
私を擁護してくれた小鳥さんは、容易くルーカス様に跳ね除けられてしまった。
ルーカス様は私を見て、さも当然のように教えてくれた。
「いいか? 創造系の異能はその希少性だけで『F』ランクを取ることはあり得ない。最低でも『B』はかたいし、メリナの異能は作った生物が言葉も喋るんだぞ? 最低どころか、最高の『S』ランクを取る可能性があるくらいだ」
私が『S』ランクだなんて途方もない想像をしている彼は、自信に満ち溢れた顔をしている。
「……ルーカス様は、私に受けて欲しいですか?」
私は興味本位で聞いてみた。
そんなことを聞かれるとは思っていなかったルーカス様は、目線を上げて考えてから答えてくれた。
「んー、俺は別に。むしろ、もしメリナの異能が公になったら攫われる可能性が出てしまうからな。下手に外を連れ歩けなくなって、こちらの祓魔に影響が出るのは困る」
「え、外……行けなくなるんですか?」
「全く行けなくなるわけじゃないが、周辺警護にも気を配らないといけなくなるから回数は減るだろうな」
……そ、それは嫌だ。
外の世界を見てみたくてアデナウアー家に来てルーカス様と結婚もしたのに、こんなにも早く回数が減るのは悲しい。
まだ、実際に見られたのは昨日の夜景しかない。
もっともっと、たくさんの場所に行きたい。
「異能測定は国民の義務ではないし、受けなかったからといって罪に問われることもないんだ。無理強いはしない。受けたいなら受ければ良いし、受けたくないなら受けなくて良い。……メリナはどうしたい?」
ルーカス様は、私が無能でも気にしない寛容な人。(まあ、無能ということより、悪魔引き寄せ体質のメリットを取ったと言われたらそれまでだけど)
今も私に、私の意思を聞いてくれている。
……なんだかんだ言って、優しい人なのよね。
「私は――」
私は、異能測定を受けるかどうかの答えを出した。
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