世界観への侵略 Ⅱ 〈完〉

「ふーん、ハルちゃんもあのアリーナライブ見てたんだ。もっと早く教えてよ! 一緒に感想会やりたかったなー」


「申し訳ありません。色々とあの後は混み様だったんです」


 紺色の髪の少女はツンとした態度の赤髪の少女の機嫌をとるのに必死であった。


「もう過ぎたことだしいいけどさ。結局彼はそのあとに──」


「はい。残念ながら事件を防ぐことは出来ませんでした」


 がっくりと肩を落とすように落ち込む少女に彼女は声をかける。


「そんなに気を病むことかな? だってライブがしっかり終わるまで事件は起きなかっただよ。そのあとのことはハルちゃんのせいじゃないでしょ。爆破事故は起きなかっただから十分頑張ったと思うよ」


 彼女は身を乗り出して紺色の頭を撫でる。


「そうでしょうか……どうしてもあの場で犯人を見つけることが出来れば彼の事を助けることが出来たと思うんです」


「そうだったかもしれないけど、それはハルちゃんの憶測でしょ。私たちは推しのことを憶測でしか語れない。だからこそ憶測で批判してはいけないとハルちゃんがいつも言っていることだよー!」


「少し違うような気もしますが、そう言って頂けるのは嬉しいです。ありがとうございます」


「それで混み様ってのは何があったの?」


 紺色の髪の少女は自分の鞄から一枚のフライヤーを取り出した。これは例のライブで貰えるものだ。


「何故か、2枚入っていたんです。最初は間違いかなと思っていたのですが、よく見てみると」


 紙の右端の方へ指で差した。


 そこには「親愛なるホームズのみんなへ、私の爆弾は気に入ってくれたかね。モリアーティより」とプリントされていた。


「えーなにこれ? 偽物?」


 件のライブのモチーフは探偵であった。なのでキャッチコピーとしてこれと似たような文がプリントされているのだが、爆弾とモリアーティとは書いてはいなかった。


 その二つの部分が変えられているのだ。


「まだ、推しを愛する気持ちを悪用する様な事件が起こる気がするんです」


「早く、警察に提出して指紋とか見てもらった方がいいんじゃない? 私触っちゃったけど大丈夫そう?」


「訳あってこれは提出しませんから気にしないでください。もしかしたらあの人が関わっているのかもしれないので確かめたいのです」


「ふーん。もうモリアーティの目星はついてるって訳か。ホームズさん。教えてくれないかね」


「結論はそう急ぐものではないよ。ワトソンくん」


 少女たちの楽しそうな笑い声がテーブルをささやかに彩った。


「ワトソンくんは私には荷が重いかも! それこそフユカさんが助手じゃないの?」


「げっ! そうですかね……」


 少女は少し悩んだ後にもう一度口を開いた。


「ただ──もし私が一線を越えそうになった時に止めてくれるのはフユカさんでしょうね」


 紺髪の少女は少し寂しそうな声色でそう呟いた。


「私も全力で止めるよ! だって友達だもの!」


「はい。頼りにしています私の親友さん」


「あら! ずるいよ私は大親友だと思ってるもん」



 少女たちが雑談に花を咲かせていると着信音楽が鳴った。


 紺髪の少女は着信に応えるのであった。


「はい、分かりました。本当にいつも急ですね。はい。すぐに向かいますよ」


「行っちゃうの?」


「すみません。また、後日埋め合わせはするので」


「もーう! 埋め合わせだなんてやめてよね。また誘ってくれればいいから!」


照れながら少女は笑った。







 ご愛読ありがとうございます。

 次の話でまた会いましょう。

 シンシア

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厄介ファンと爆弾魔 シンシア @syndy_ataru

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