第13話 付与術師、剣を貰う

 3人で酒場で飲み明かし、酔い潰れたミリアを取り敢えず近場の宿屋へと運んだ。

 ベリルはあれから全然酔っている素振りが全く見られず、顔を変えずに家へと帰って行った。家まで送ろうかと聞いたが、遠慮して速足で俺の目の前から消えてしまった。

 俺も少し酔いが回っていたのでミリアと同じ宿屋で(勿論部屋は別で)寝泊まりすることにしたのだった。


 そして、翌日――


「頭痛いぃ……」


 顔を青くしてミリアがギルドへと入ってくる。ミリアは俺が座っているテーブルへと向かってくると俺の目の前で突っ伏する。

 俺はミリアの身体を揺らし起こそうとするが、ミリアはうぇうぇと唸りながら起きる様子がない。これは相当な二日酔いだ。


「だから、飲み過ぎは良くないって言ったんだ」


「うぅ……ごめんなさいぃ。そう言えば、そろそろディドリーさんの武器が完成している頃だと思うから行ってみると良いかも。私はここでお留守番ぅ」


 そう言えばディドリーさんに武器を頼んでから時間が経っていた。

 ディドリーは俺の為に武器を作ってくれると言っていたので、そろそろ完成している頃合いかもしれない。

 本当ならミリアと一緒にディドリーのところへ行きたかったのだが、ミリアが二日酔いでダウンしてしまっているのでしょうがなく1人で向かうことにした。


「じゃあ俺行ってくるから、あとこれお水」


 俺は木製の器に入った水をギルドから貰い、ミリアの傍に置いてやる。


「行ってらっしゃーーいぃ」


 俺は気だるげなミリアに見送られながらディドリー武具店へと向かった。



 ☆☆☆☆☆



 ディドリー武具店へとやってきた俺はゆっくりとその店の扉を開ける。

 やはり、いつも通り人は誰も来ておらず店は閑古鳥が鳴いていた。店番をしている者もいない。いつも思うが本当にこの店はやっているのかよく分からないな。


「ディドリーさーーん! 僕ですウィリオです!!」


 店の奥に向かって大声で呼びかけてみるが、返事がない。俺は店の奥へと入り、ディドリーを探すことにした。

 店の奥の裏庭に向かい、周囲を見渡すがやはりディドリーの姿はない。一体どこへ行ったのだろうか?

 そう考えていると正面の建物から何やら話し声が聞こえてきた。もしかして、あそこにディドリーが居るのかもしれない。

 俺は店から離れた建物の方へとやってくる。白塗りの壁に大きな平屋だ。家の様には見えない。恐らくディドリーの工房だろう。俺はゆっくりと扉を開けた。


「あの、ディドリーさん?」


 俺が扉を開けるとディドリーともう1人の会話が聞こえてくる。


「そりゃ、できなくはないよ。ただ剣100本に魔法伝導率の高い魔鉱石を使用して欲しいだなんて、結構値段するけど良いのかい?」


「構わんのじゃ。それにこの剣は今年から入ってくる剣術学科の新入生に送ろうと思っている。今年からは剣術学科にも力を注いでいこうと思ておるからの」


「ふーーん、そうかい。まぁ詳しくは聞かないけどあんたの要望ならいくらでも打ってやるぜ。ただ、少し時間は必要になって来るけどね」


「お前の作る武具は一流なのはこの私が保証する。だから、期待しておるぞ」


「これはこれはごひいきに」


 ゆっくりと工房に入り、俺が顔を出すとディドリーともう1人小さな少女が工房内に居た。


「こんにちはディドリーさん」


「おお! ウィリオ! 来てくれたのか!! あれ? あいつは? お転婆少女は?」


「昨日飲み過ぎでギルドで倒れてますよ」


「ん? 今ウィリオと名乗ったか?」


 少女は俺の名前に反応し俺の方へと向かってくる。くるくるとカールがかった金髪とゴスロリ調のフリフリした服を揺らしながら。

 少女はまじまじと俺の事を見た後、ニタリと笑った。


「お主がウィリオかの?」


「え? ああそうだけど」


「ウィリオ・レイドールかの?」


 俺は突然フルネームを言われたことに驚いた。俺はこの少女に一度も出会ったことは無いのに……


「え? どうして俺の名前を?」


「ふっふっふ……やはり、噂は本当だったか。剣を取りに来たのじゃろ? 私はここで失礼するのじゃ」


 そう言いながら少女はクスクスと笑いながらこの工房を後にした。俺は訳が分からなかった。


「ディドリーさん、さっきの人は?」


「ああ、あの人は魔術学校の学長だよ。いつもお世話になってんだ」


「学長って……あのガミジン魔術学校の」


 ガミジン魔術学校は俺が入るはずだった一流の魔術師の卵たちが入るエリート校だ。その学長となるととんでもない地位に位置する人だぞ。

 そんな人がどうして俺の名前を知っていたんだろうか。気になる所ではあるが本来の目的とはずれているため、今回は気にしないでおこう。

 俺はディドリーさんに今日は剣を頂きに来たことを話した。


「ああ、そうか取りに来てくれたんだな。安心しろ、もう出来てある」


 そう言いながらディドリーは立ち上がり、壁にかけられていた剣の中から1本のショートソードを手に取った。


「これがお前さんに渡す剣さ。ウィリオの手に合わせてグリップの大きさを調整してある。ほれ、触ってみな」


 ディドリーが俺に剣を差し出してきたので、それを受け取る。グリップの部分が手にすぐ馴染むほど掴みやすい。そして何よりも俺の身体に合った長さをしていた。

 少しだけ素振りをしてみると、今まで使ってきた一般的なショートソードよりも鋭い振りができるようになった気がする。


「お前の身体に合った限定仕様にしてあるんだ。それと、ウィリオは付与術師だったよな? おまけとして、剣の刃は魔法伝導率99%の純度の良い魔鉱石を鋼に混ぜて使ってやったさ。試しに魔法付与エンチャントしてみればいい」


「ああ、やってみる」


 俺は剣の刃に手を触れて魔法を行使する。


「炎の精霊よ、刃にその炎の力を与えたまえ”火炎付与エンチャントファイヤ”」


 魔法の行使をした瞬間、刃の先まで一気に大きな火が灯る。今までの武器に付与した時よりも素早く付与が施された。

 これは魔鉱石と呼ばれる特殊な鉱石が使われている。俺が住んでいた北の山、ストラス山から発掘されるこの魔鉱石は、どの鉱石よりも魔法の伝導効率が良く。多くの魔法使いが杖などの魔術触媒に混ぜられたりしている。

 そんな魔鉱石も純度が高ければ高いほど値段も高くなる。こんな良い物を作ってくれたのはありがたいが、今回貰った報酬金で足りるだろうか……


「ディドリーさん、良いものをありがとう。でも、俺の持ち金で足りるかどうか」


「金は要らないよ。それは私からのプレゼントだ」


「え!? 良いのか!? こんな良い物を……しかもほぼオーダーメイドの武器なんだぞ!?」


「良いって、魔鉱石も人から貰ったものだし、私が打ってやりたい人間に使おうと思っていたから何も問題ない。そうだな、支払いはお前がその剣を使ってうちの店の宣伝をしてくれれば良い。それと、その剣いつでも私のところに持ってくればメンテナンスもしてやる。魔物の素材なんかあればもっと強くできるんだけどな」


「そこまでしてくれるなんて、ありがとうございます!!」


「ミリアには内緒な」


 俺は借りていた剣を返却して、自分の剣を鞘にしまった。俺の為の武器オーダーメイド……なんていい響きなんだ。

 ただでこの剣を貰ってしまったからあとで何かディドリーさんにはお礼しないとな。


「ディドリーさんありがとう!!」


「おう! その剣でまた活躍期待してるぜ!」


 俺は工房を出て、武具屋を後にする。さて、そろそろギルドに戻ってミリアの様子を確認しに行かないと。

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田舎の魔術師の名家から【魔力極小】の無能付与術師だと絶縁されたけど、剣の才能があったので第二の人生は《魔剣聖》になる ~俺が剣を持ったら仲間達から必要とされるようになった件~ 霞杏檎 @kasumi678a

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