学校入学編
第12話 付与術士、師匠?になる
気が付くとガミジンの国に夜がやってきていた。
E級昇格試験を終えた俺たちは無事にE級冒険者へと昇格することが出来た。
試験には依頼報酬はないが例外がある。それは魔物から取れた素材をギルドに納品することで追加報酬を得ることが出来る。しかし、ベリルが怪我をしてしまったことによって討伐したドラゴネットの死体から素材を入手し損ねてしまった。
それに関しては手痛い事ではあったがそれを上回る出来事が起こった。
それは上位階級の魔物討伐による追加報酬だった。これは、自身の階級より2階級以上高い魔物を討伐した際に貰える報酬だ。
これによっていつも受け取る報酬の3倍の額の報酬が得られた。
この報酬を握って向かった先はそう、皆が盛り上がっている酒場へとやって来た。
「では! ウィリオとべリルのE級昇格を祝って……かんぱーーい!!」
ミリアが音頭を取りエールの入った器を大きく掲げる。
「乾杯」
「か、乾杯です!」
俺とベリルもそれに合わせて掲げ、器を口に運んでエールを一気に飲んだ。
竜と戦い疲れ切った身体に流し込むエールは格別だ。ベリルも口の周りについたエールの泡を舐めとり、ほっこりとした顔を見せていた。
ミリアはエールをぐいっと一気に飲み干して、幸せな表情を見せた。更にミリアは皿の上に乗ったモーモー牛の串焼きを持って口へと運ぶ。
「もぐもぐ、美味しーー♪」
俺もモーモー牛の串焼きを食べようとした時、ベリルが俺の口元に串焼きを差し出した。
「し、師匠! あーーんです!」
「え、いや、自分で食べられるけど」
「師匠に食べ物を食べさせるのも弟子の務めだと思いまして!」
「自分で食べられるから大丈夫だ」
「そ、そうですか……」
ベリルはしゅんとした様子でちょっと俯いてしまった。
なんか悪い気もするが、正直女の子にあーーんしてもらうのは少々恥ずかしい。
「そう言えば、どうして俺が師匠なんだ? 俺は別に剣術の学もないし、教え方も分からないんだぞ?」
「そ、それは! 何度も言いますが、ドラゴネットを倒したその凄い剣術! 私、感動しちゃいました! 私もウィリオさんのように川の流れの如く、美しい剣さばきを近くで見て学びたいと思ってます! 本当に剣術は何も学んでないのですか?」
「うん、一切学んでない。家でずっと魔術を叩き込まれたよ。ただ、俺には無駄だったようだけどね」
俺が目を伏せてエールを口に運ぼうとした時、ミリアが赤い顔をしながら俺の肩を組んできた。
「だ~か~ら~言ってんでしょ! ウィリオは凄いんだって! ひっく……剣術を学ばないでここまでの実力があるんだから私たちの師匠にぴったりだわ! ひっく!」
ミリアはこの一瞬でエールを何本か飲んでいたせいでもう出来上がっているようだ。
「ミリアさんも剣士で先に師匠と一緒に居たんですか?」
「うーーん、本当は私がウィリオに先輩として色々教える予定だったんだけど、ウィリオには逆に色々助けてもらっちゃったし、ウィリオの剣術の実力は確かに凄いものだから私も教えてもらうのだ~ひっく!」
ミリアはまたしてもエールをぐいっと飲み干した。
「おいおい、飲み過ぎだぞ。ほどほどにしときなさい」
「は~~い♪」
☆☆☆☆☆
あれからミリアはよほど楽しかったのかエールと食事を堪能し、酔いつぶれて寝てしまった。
俺はそこまで飲ん出なかったから何ともなかったけど、ベリルは結構飲んでいた気がする。それでも顔色一つ変えずに食事を楽しんでいた。酒が強いんだろうか。
みんな俺に才能があると言ってくれているが俺には教えられることは何もない。それで2人は本当に良いのだろうか。俺が師匠呼ばわりされる権利なんて持ち合わせてない筈なのにこれほどまでに信頼されていることに少し不安感を感じている。
「ベリル、やっぱり俺には師匠と呼ばれるには難しい気がするんだ」
「どうしてですか?」
「本当に何も教えられないし、俺自身もこの力を分からずに使っているんだ。半分付与術師として培った魔術にも頼っているから尚更だ」
これでベリルが少しは諦めてくれることを俺は願っていたのかもしれない。だから、包み隠さず俺には何もできないことを明かしている。
だが、次に出たベリルの言葉は俺が考えていたこととは全く逆の事だった。
「……私は正直、師匠に口で教えてもらおうだなんて思っていないです。わ、私は、私が尊敬した人の傍に居て、観察して、そこから学べることもあるんじゃないでしょうか。剣さばきや体の動かし方とか、無意識にやっているのならこっちが積極的に学びに行かなきゃって考えでやらせてもらうことだけでもできませんか?」
ベリルは真剣な表情をしながら俺の方を見ている。俺があれほど言っても聞かない頑固さに、俺は到頭どうすることもできない。
多分だけど、素面のミリアでもきっと頑固になって同じようなことを言ってきただろう。なんとも厄介な
「ははは、分かった、分かったよ。だけど俺はまだ自分自身を師匠って認めたわけじゃないから剣術は教えないぞ。勿論、魔術も」
「わ、分かってます! ありがとうございます師匠!!」
「師匠ねぇ……」
師匠と呼ばれるのに納得がいかない自分と妙に気分が良い自分がいる。
俺はエールを一杯飲み、もやもやとしたこの気持ちを少しでも流し込んだ。
このままやっていけそうかは、この酔いが覚めた後にでも考えれば良い。今は一時の成功を祝おう。
こうして、俺はほろ酔いながらも2人の弟子入りを承諾した。
果たしてこの先、俺は師匠としてやっていくことが本当にできるのかは今は考えないようにしておこう。
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