幕間 ガミジン魔術学校
都市ガミジンには巨大な建物が都市の真ん中にそびえ立っている。それはこの国の王ガミジンがいるガミジン城だ。
そんな国のシンボルの近くにガミジン城に並ぶ巨大な建物がある。それはガミジン魔術学校である。
ガミジン魔術学校とはガミジンの領土周辺の地域から集まる魔術の才能に長けた魔法使いの卵たちがこぞってやってくる教育機関だ。
ガミジン魔術学校には魔術のみではなく他の専門科目も取り扱っており、それぞれ魔術クラスと剣術クラスに分けられている。剣術もあるが、力を入れているのは魔術なので科目人口としても魔術クラスの方が人気なのだ。
魔術クラスについては全員が魔法の特進生である。一方で剣術クラスは国の兵士などを育てたり、量産する関係上剣術に秀でている者だけではなく、試験に合格できた一般人でも入れるのだ。
ガミジン魔術学校内の回廊を颯爽と歩く1人の初老の男、彼は速足で向かった場所は学長室と掛かれた部屋だった。
男は部屋の前に立ち止まると、2回程ドアへノックをする。
「うむ、入り給え」
扉の奥から聞こえた言葉に合わせて、男は扉を開いて中へと入った。
「失礼いたします、フィリーユ学長」
男の目の前に居たのは小さな少女だった。その少女は小さな体には似つかわしくない大きな椅子に座って外の様子を眺めていた。
彼女の名前はフィリーユ・ミスカトニック、このガミジン魔術学校の学長を務めている人物である。幼そうな見た目とは裏腹に魔法の知識、腕は一流であるためこの学園最強の魔術師なのである。
「バスカヴィール、どうかしたのじゃ?」
「フィリーユ学長、用件が2件ほどございます。1つはこの学園の新規生徒たちの入学式が近づいていることであります。毎度のことではありますが、我が名門ガミジン魔法学校に来られる生徒はエリート中のエリートを揃えた魔術師の卵たちであります。その中でも、超一流のエリートを決めるための試験を行わなくてはなりません」
「もうそんな時期か、時が経つというのは早い事じゃな。うむわかった、いつも通り入学前試験の準備は私が考えておこう」
「ありがとうございます」
パスカヴィールは深々とお辞儀をする。顔を上げると少し下がった片眼鏡を指で直すと改めて口を開いた。
「まぁ、分かり切ったことではありますがね。今年はあのレイドール家の人間が入学してくると話は聞いていますから。それも2人も。今年の主席はその2人のどちらかになりそうではありますが」
「そうか! そうか! 今年はレイドール家の血を受け継いだ子がはいってくるのじゃな。今年一緒に入ってくる者たちはさぞはずれくじを引いたに違いないのじゃ」
「それともう1件の方ですが、最近認定されたダンジョン、または区域内に認定されていない上位階級の魔物が出現する事例が多発しているとダンジョン調査団の方から説明を受けました。この件に関してフィリーユ学長にも話をしたいとダンジョン協会からその通達が来ておりました」
ダンジョン協会とは、魔物が出現するダンジョンや危険区域を調査し、ギルドの冒険者の為にランクを認定したり、情報をまとめたりすることを生業とする組織である。
パスカヴィールは懐から手紙を取り出し、フィリーユの机へと乗せた。
フィリーユはその手紙を受け取り、手紙の内容を読む。
「ふむふむ、なるほどね。で、その何件かの事例によって冒険者には被害が出ていないんじゃな?」
「いいえ、実は話によると既に上位階級の被害は冒険者に出ているとの報告がございました。しかし、その同件はどちらも解決されたと話が来ております」
「……と、言うと」
「
「……ほう」
フィリーユは手紙から目を離すと机に置いた。
椅子から跳ねるように飛び上がり、外の様子が一望できる真後ろの窓ガラスの方を向く。
「その話は偶然って訳ではないようじゃな?」
「仰る通りで。その上位階級を倒した下位階級の冒険者はいずれにしても同じ者でございます」
「ふーーん、因みにそのものの名は何というのかしら?」
「そ、それが……」
パスカヴィールは少し曇らせた表情を見せる。
「何じゃ? 名前が言えんと言うのか?」
「いえ、そうではございません。失礼いたしました。では、改めて……その冒険者の名はウィリオ・レイドール。我が魔術学校にて首席で卒業したドグラ・レイドールの実の息子であり、魔術界の超天才の血筋であります」
「……」
フィリーユは黙ったままゆっくりと振り向き、そのままパスカヴィールの元へ軽快な足取りで近づいてくる。
フィリーユはにやりと笑みを浮かべるとパスカヴィールの耳元で囁いた。
「世の中には面白い事が起こるなパスカヴィール。入学予定のレイドール家の1人がなぜここで冒険者をしているのか……実に興味深いのじゃ、うむうむ興味深い」
そう言いながら、フィリーユは学長室の扉の前へと向かう。
「フィリーユ学長、どちらへ?」
「先にダンジョン協会の話をちゃちゃっと聞いてくる。そのあとちょーーっとだけギルドに寄って来るのじゃ」
「そうですか。では、お気をつけて」
「うむ」
そう言うと、フィリーユは指をパチンッと1回鳴らした。その瞬間、フィリーユの身体は一瞬にしてこの部屋から消えた。
フィリーユが居なくなり一人になったパスカヴィールは大きく息を吐く。
「自由なお方だ」
そう言い残し、フィリーユもこの学長室を後にしたのだった。
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