レイムのレイム

盗電一剛

第1話:始まりの始まり

『博麗、うぃーっす』

『その呼び方、いい加減やめろよ。てか呼びずれぇだろ』

『いいだろ、別に。減るもんでもねぇし』

『減るんだよ。俺の本名の知名度が』

『へいへい、すまんすまん。ところで霊夢、数学の宿題写させてくれ』

『たまにはやって来い』

『え~、いいじゃ~ん。めんどくさいのが悪いだろ』

『いやだ。今日という今日は見せん』

『そんなぁ~。後生だぜ博ちゃん』

『あだ名からあだ名を作るな』


───────────────


 S市総合病院。


 S市で最も大きい医療施設であり、県全体で見ても有数の設備が整った施設である。


 そして──アイツが入院している病院。


 ここに来るのは何度目だろうか。


 アイツが目を覚まさなくなってからもう1年経つ。




 あの日、アイツは初めて授業中に寝た。


 2時限目。伏せているのを見て、みんなで面白がっていたずらをした。


 3時限目。まだ起きないアイツを見て、みんなで呆れた。


 4時限目。いつまで経っても起きないアイツを見て、みんなで心配した。


 そして、結局起きなかったアイツは親が迎えに来た。


 それでも、起きなかった。




 そして、次の日。


 アイツが目を覚まさないという報告が学校に入った。


 その後、学校から飛び出した俺とアイツの母親の付き添いのもと、彼は病院に搬送された。


 脈も正常で、特に疾患や異常もなく、目を覚まさなくなった原因は不明、と医者は俺たちに告げた。


 そして、息子は目を覚ますんでしょうか、と尋ねる母親に、医者はこう告げた。


 分からない、と。


 その答えを聞いた時の彼女の表情を、俺は今でも忘れない。




 もう、あれから1年。


 クラスメイトの中では過去の出来事となっていた。


 みんな覚えてはいるものの、話題には一切出さない。


 俺には、昨日のことのように思い出せるというのに。



 ボーっとしながら歩いていると、1つの病室の前に立っていた。


 通い続けて顔見知りになった看護師と挨拶を交わし、その病室のドアを開ける。


 そこには1年もの間変わらない光景が広がっていた。



 ベッドの横の机に置いてある花瓶を一瞥してから、俺はベッドのそばに置いてあった椅子に腰かけた。


「よっ。また来たぜ」


 そして、目を閉じている彼に話しかけた。


「ちょっと聞いてくれよ。今日さ┄┄」


 話すことなんか、今日あったことくらいしかないが、それでも笑いながら会話を続けた。


 そうでもしないと、俺もみんなと同じように、彼の存在をなかったことにしてしまいそうだから。



 無機質な部屋の中、乾いた笑い声が響く。


 そして、話題もつきたころ、部屋に沈黙が舞い降りた。


「それじゃ、また来るわ」


 椅子から腰を上げ、荷物をまとめて病室を出ようとした、その時




「ん、う…」




 聞こえるはずがないと思っていた、声が聞こえた。

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