each other

 大好きな人の世界を知りたいという気持ちは当たり前にあるだろうけど、それ以上に自分の世界を知ってほしいという気持ちの方が強いのは皆一緒だと思う。

 もちろん、それを表に出したくないってことも。


「ねえ、ペアルックって興味ある?」

「あたしは別に。ルミは?」

「コーデとしてはアリだと思うけど……私もいいかな」

「へえ、意外」

「そんなに意外?」

「うん」

 大通りに面した喫茶店。

 外を一望できる席に向かい合いながら駄弁っている。

 彼女はブラック、私はカフェラテ。

「だって、さっきもペアルックのカップル見てたでしょ」

「ああ、電車でね。……まあ、見てたけど」

「だから興味あるのかなあって」

 彼女は私をよく見てくれている。

 さっき電車にいた時も向かい合って喋ってたはずなのに。

 そういうさりげないところが嬉しくも恥ずかしくて、つい口籠ってしまう。

 でも、彼女の前ではそんな悪癖もストレスではなかった。

 むしろそれすら受け入れてくれるという安心があった。

「で、実際どうなの?やりたい気持ちあったりする?」

「……まあ、一回やってみたい気持ちはある、っていうかあった」

「煮え切らない感じだね」

「んー、なんていうか、私がしたいのは一緒の世界を見ることじゃないかなって思って」

「あー……なんか言いたい事わかったかも」

「ほら、ペアルックってさ、お揃いなわけじゃん?」

「うん。頑張ってると身長とかまで揃えてるよね」

「それも素敵だなあって思ったりはするんだけど、私はそれよりも違う見え方をしてる人と会話していく方が好きだなって」

「会話かあ。たしかにそっちの方がロマンチックかもね」

 彼女はよく私をロマンチストだという。

 私自身はそんなつもりはないんだけれど、でも……好きな人と一緒にってことならたくさんコミュニケーションを取りたいし、お互いに理解し合いたいとは、思う。

 だけど、そんなことを言ったら彼女も同じようなものだ。

「でも、シオリだってそうじゃない?」

 少し不満げに言ってみれば、彼女ははにかんで。

「それを言われたら……たしかに私もそうだし、何なら私の方がロマンチストだとは思うけどさ」

「でしょ?」

「まあ、私の場合は会話をしたいっていうより、同じ場所で違う世界を見ている相手とそれでも繋がっているって感じたいからなんだけど」

「なにそれ、エモいじゃん」

 オフィスカジュアルに身を包む黒髪ショートの彼女が、こんなことを言うのがたまらなく好きだった。外見だけではわかりにくい、純粋なまま成熟したような彼女の精神性も。照れながらも私に教えてくれるところも。

 私はカッコいい彼女のようにはなれないから。

「でも、そうしたいって思う相手は少ないよ」

「私もそうだよ」

 もちろんわかっている。だけど言葉にする。

 だって言葉の繋がりは不確かだからこそ大切なものだから。

 そう言葉にすることで、あなたと繋がっているんだって感じることが出来るから。

「じゃあ……今度どこか旅行に行ってみる?」

 それに、こうやって新しい想い出にも繋がるから。

「いいね、温泉とか?」

「んー。温泉も良いけど、それより温泉とか堪能した後に朝方二人で抜け出して散歩とかしたいな」

「それ最高じゃん」

「でしょ?」

 そうやって笑う彼女は世界で一番綺麗で。

 だからこそ、私は彼女の見ている世界を知りたいと思う。

 そして、彼女にも私の見ている世界を知ってほしいとも思う。

 あなたがどれだけ私を幸せにしてくれているのかを。

 私達の違いが、どれほど二人の時間を満たしてくれるのかを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

セカイとセイカイ 星野 驟雨 @Tetsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ