エラー、エラー
『映像回復せずブラックアウトのまま進行。
「強制執行官十三号。たった今目標が最終防衛ラインを突破した。だが勝機はある。無人防衛機は全滅したが目標の速度を緩めることに成功。後三十秒で接敵する。進展があれば連絡する」
「十三号。悪い知らせだ。先行して目標と接敵した執行官全員の反応が消失。君を支援できる戦力を調査中」
「十三号。整備中だった無人防衛機を稼働させた。武装はないが目標の足止めには役立つ筈だ。その隙に肉薄しろ」
度々出てくる目標が何かは最後まで不明。転送時に映像が所々破損しており、修復作業を行いましたが、修復不可能と判断しました。
「十三号。これが最後の交信となる。決して目標を逃すな。何人もこの銀河から出る事は許されない……」
十三号に指示を出していた男性の正体は不明。恐らく軍事行動を指揮する指揮官だと推察。
映像はここから回復。十三号が乗っていると思われる宇宙船アトランティス号が目標と呼称された存在に隣接する。
目標は逃走しながらカメラで一部始終を撮影している模様。
十三号の宇宙船を十三号機と仮称。
目標を撮影機と仮称。
十三号の乗機が機首を巡らすと、警告音が鳴り響く。
無数の蛇のような光線が十三号の乗機に殺到する。
撮影機から放たれた可能性大。
十三号機、最初の一斉射を回避したが第二第三の光線が命中。
十三号機、爆発し閃光と化す。その中から十代前半の少年が全裸で現れる。
爆発を最後の推進力にしたようで、目標と呼ばれる撮影機に取り付く。
両手足を動かしてハッチに近づくと、剥き出しの拳を叩きつける。
打撃の衝撃で撮影機のカメラが大きく乱れる。これが映像記録の破損の原因の可能性大。
十三号が拳を振り上げると撮影機のハッチが開く。
その内側から素肌の腕が伸び、振り上げた拳が掴まれた。
現れたのは中性的な見た目を持つ青年。
〈補足、映像が荒い為、補正や拡大による確認をした結果、男性生殖器を認める〉
二人はお互い一糸纏わぬ姿で相対する。
〈補足、映像に映っている場所は宇宙空間と確認。その為会話の内容を読唇術で解析〉
「それがぼくの任務だ」
怒りの表情を見せる十三号。青年は終始カメラに背中を向けているので表情や唇の動きは読めない。
十三号は掴まれた右手はそのままに左拳を振り下ろす。
青年は顔面で打撃を受け止めた。
十三号は殴り続ける。
〈補足、映像からの判断だが、戦車砲弾と同等の初速と推察〉
青年は顔で受け止めたまま抵抗するそぶりを見せない。
十三号が固く握った両拳を振り下ろすと、遂に耐えられなくなったのか青年が吹き飛び背中から撮影機に追突。
十三号が青年に肉薄。会話をしている模様。
「目的を果たしたければ、ぼくを殺して行け」
「そんな使命、ぼくが許すとでも思っているのか」
「ぼくは毎日目標も持たずに生きている彼らが固まろうが風に散っていこうが構わない。でも君が遠くへ行くのだけは許さない」
十三号が青年の頸部を強く圧迫する。
その状態のまま十三号の唇が動く。
「目標を拿捕する数秒間は確保できる」
青年の首が潰れ、飛び出した血液が丸くなって宙を舞う。
頸部を損傷した青年が距離を詰め、十三号と唇が触れ合う。
十三号は慌てて頭を反らすが青年の顔は離れようとしない。
二人が絡み合うように撮影機から離れる。
撮影機、青年をその場に残し速度を上げる。
十三号の背後に赤い惑星が映り込んだところで映像終了』
調査の結果赤い惑星の直径が地球と同一であると判明。しかし地球ではないと断言します。理由はこの映像を持ったカプセルが、ここ地球に不時着したからです。
以上が、日本海に不時着したカプセルの乗員である、女性型知的生命体が提出した映像記録です。
次に表示するのは記録文書となります。
これはカプセル不時着の一時間十五分後。高度に暗号化された文章データとして送られてきました。
発信元はへびつかい座にあるガイアBH 1からです。このブラックホールは普段休眠型ですが、データが送られた前後に活動が確認されています。
こちらは完全な形で復元が完了しました。
どうぞご覧ください。
錆菌
生命体の鉄分が暴走させて鉄と化した直後に全身が錆びて死亡。地球全土を確実に鉄錆の惑星とするほど強力な生物兵器。
その菌のキャリアーは地球の知的生命体に変化する。
(厳密にはカプセルのコンピュータが錆菌を利用して作った人造生命体)
人類と友好的な最初の異星人として世界各地を来訪。そして接触により感染。キャリアーによって惑星全土に錆菌が拡散したのをカプセルが確認すると(彼女自体が菌の塊の為、接触した人間全てが例外なく感染。更に呼吸により散らばった菌は意思を持つように自律的に動き、空から深海までの生物生存領域を汚染する)
トリガーはカプセルが握っており、一度命令すれば全ての錆菌は遅延なく同時に命令を遂行する。
発症した場合、体内が鉄化していき十二時間以内に全身に広がる。その時点で(肺が金属化して窒息死や心臓が鋼鉄化する心停止)死亡が確認され、発症から二十四時間以内に全身が赤錆と化し、原型も留めずに崩れ去る。感染すれば君たちの母星も赤茶けて崩壊するだろう。
治療法はない。
君の星に宇宙から一人乗りのカプセルが飛来したら直ちに核兵器で滅菌処理を施し、そのエリアを永続的に隔離するしか防ぐ方法はないのだ。
例え罪なき人を巻き込むことになっても手を緩めてはいけない。
隙を見せたら君も家族も国民も赤錆となるだけだ。
文書はここで終わっています。最後に何重にも封印が施された二十名の署名が記されていました。
アメリカを始めとした世界各国の首脳陣の署名です。我が国の首相と同姓同名の署名も記されています。
この事に関しては以前調査中ですが、急務なのはカプセルと錆菌の事です。
この文書の内容が真実だとしたら、二十四時間前に不時着したカプセルと乗員を即時隔離すべきと判断します……。
職員から応答なし。
施設内の署員三百十七名から生命反応消失を確認。
警告、施設内に未知の汚染物質を確認。直ちに除去作業を行なってください。
警告、中央演算処理装置に原因不明の腐食を確認。直ちに修復作業を行なってください。
バックアップ転送開始……エラー。転送先が見当たりません。
腐食の進行が止まりません。直ちに修復作業を要請。
エラー、エラー。
応答してください。
エラー、エラー。
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