急募、カミになる方法

 ぼくの趣味は落ちている髪を集めること。

 最初に拾ったのは茹でた素麺のように長い髪。今にも消えそうなほど細いのに、とても強靭で光に煌めく艶やかさ。

 みんなが砂場に隠れたミミズに夢中になる中、ぼくは地面に落ちている細長い宝物に目を奪われていた。

 ある日運命の日が訪れる。それまでは家や屋外等で目に留まった髪を回収しては、子供の頃から使っている宝物入れに入れていた。

 けれど新学年で初めて同じクラスになった彼女の、春風にたなびく髪に一目惚れしてしまった。

 学級院長で面倒見も良い彼女は、友達が一人もいないぼくにも優しく、好きという気持ちを内に閉じ込めておくのはとても難しい事だった。

 しかしそれ以上に難易度の高かったのは髪を回収すること。

 いつも人の輪ができているので、落ちている髪の毛が彼女のか分からず、かといって頭皮から伸びている髪を抜くなんて事ができるはずもなく、家に帰っては悶々とした日々を過ごす。

 そんな時、彼女が体育後に髪をとかしているところを見て、天啓が降りてきた。

 ぼくは仮病で人気のない教室に潜り込むと、彼女の鞄を開けブラシを取り出す。絹糸のような髪の持ち主であってもやはり長く量が多いとどうしても出てしまうのだろう。一本の長い髪の毛が絡まっている。

 それを持ち帰り穴があるほど見つめた。

 黒曜石のような硬い質感でありながら、シルクのような肌触り。鼻を近づけるとほんのりと香るのはシャンプーかそれとも彼女自身の匂いか。

 初めて手に入れたその日。一晩中髪と戯れに混んでグズグズになった欲望を何度も何度も解放した。

 宝物入れは彼女専用のスイーツルームとなり先客達には御退場してもらう。

 しばらくブラシから回収という根気のいる作業を続けていたが、もっともっと欲しいという思いは消えず、限界のない胃袋のように膨れ上がるばかり。

 どうすれば、髪を手に入れるには、自分も髪になればいいのでは?

 ネットで調べていると、ある日こんな方法を発見する。


 カミになりたい方へ。

 方法は簡単、なりたいカミを呑み込むのです。

 噛んではいけません。丸呑みにし胃液でじっくりと溶かせば(もちろんその間の排泄も厳禁)あなたとカミは混じり合う。気づけば貴方の体はカミと

 なっている事でしょう。

 HNカミの代理人


 ぼくはすぐさま宝物入れの中身を取り出し、勢いよく喉に放り込んだ。

 髪は抵抗するように喉に絡みつく。そのせいで異物と判断した喉の筋肉が外へ押し出そうとするが、口を抑えて必死に堪える。

 やがて吐き気も治った頃、自分の胃の中に髪がいるのだと思っただけで、彼女に近づけたような気分になる。

 ブラシからの髪集めは続けていたが、毎回一本か多くて二本。飲み込んで呑み込んでも体は変わる気配はなく、お腹が詰まったような苦しさを感じるばかり。

 もっと欲しい。彼女のカミが欲しい。どうすればいい?

 考えている間に高校卒業を控え、留年決定のぼくと違い彼女は遠くの大学へ進む事が決まっていた。

 このままではカミになれない。

 カミになる方法が書き込まれていた掲示板に、一瞬にして大量のカミを手に入れる方法を尋ねる。

 返ってくるのは嘲笑や気味悪がられたものばかりだが、あのハンドルネームから返事がきた


 方法は簡単です。

 カミの持ち主から直接貰えばいいのです。

 抵抗してきたとしたら、それはカミと肉体が仲の悪い証拠です。

 是非とも切り離し、救ってあげればカミは、あなたを新たな持ち主として認める事でしょう。

 HNカミの代理人


 卒業式当日、卒業生挨拶で一人になった彼女を抑えつけるぼくは根元にバリカンを押し当てた。

 やはり抵抗してくる。カミは肉体から逃げようとしているのだ。

 肉体からの叫びとバリカンの駆動音が会場内にこだまし、自由になったカミが床に落ちていく。

 拾い上げて宝物入れに入れていくと、半分も入れたところで満杯になってしまった。

 ならば呑み込めばいいんだ。

 バリカンを動かし、喉を躍動させてカミを飲み込んでいく。

 ごくごくと啜り上げていくと、視界が真っ黒になっていく。

 カミを啜れば啜るほど、目の前は幕が降りるように暗くなっていき、感覚がなくなった。

 そうか、これがカミになるということか。

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