ペッタリペッタリ
これはぼくが小学生の頃の話です。
その当時漫画原作のカードゲームが小学生の間で一大ブームで、ぼくも友達の家や公園そして学校の休み時間に自慢のデッキを持ち寄って強敵(ライバル)と対戦に明け暮れる日々でした。
まだ転売という概念もないので、お店で買った五枚入りのパックを開けては、一喜一憂を繰り返していました。
ある日いつものように対戦を終え帰り支度をしていたときの事でした。
デッキを確認していると、ぼくのお気に入りのカードが何処にもありません。
黒の魔術師のカードで、ぼくにとって相棒とも言える切り札でした。
不意に肩を叩かれたような気がして顔を上げると、教室に残っている数人の男子が机にカードを広げていました。
そこにはクラスのガキ大将もいました。逆らうとすぐ叩いてくるので、ぼくを含めたクラス全員は彼のいいなりでした。
そのガキ大将が対戦中ぼくのデッキを「見せろよ」と言ってきた事を思い出します。
ダメといって叩かれるのも嫌だし、そんな勇気もなかったので、どうぞといって見せてしまったのです。
その後は帰る時までデッキは肌身離さず持っていたので盗られたとしたらその時しかありませんでした。
ぼくは黒の魔術師のことを尋ねようと思いましたが、どうしても声をかける事ができず、ガキ大将の方を見ていることしかできませんでした。
そうやって立ち尽くしていると心臓を潰されそうな視線を向けられたので、慌てて目をそらし逃げるように教室を後にしました。
家に帰る間、お気に入りのカードをどうするか考えました。取り戻す事は不可能なので考えられる手段はお店でパックを買う事。
しかし時間がかかり、ましてやお小遣いしか軍資金のないぼくには、砂場に落ちた針を探すようなものでした。
その時です。
背後から不意にペッタリペッタリと物音が聞こえてきました。
最初は気のせいかと思ったのですが、ぼくの後をつけてくるようにペッタリペッタリという音が続きます。
先を譲ろうと立ち止まると、そのペッタリペッタリも止まるんです。
再びぼくが歩き出すとペッタリペッタリも活動を再開します。
その音は何か柔らかいものでアスファルトを叩いているような音でした。
例えると、風呂上がりの裸足で歩いているような感じでしょうか。
ぼくは怖くなって助けを求めようと辺りを見回したんですが、平日の夕方なのに人っ子一人おらず、車の音も聞こえませんでした。
家に逃げ込むために走り出すと、ペッタリペッタリの足音の間隔が短くなり、ぼくの背中にくっついているかのようにペッタリペッタリという音が聞こえてくるんです。
ぼくは呼吸が苦しくなっても走り続けましたが、限界を迎えて立ち止まってしまい、上下する肩に手を置かれてしまいました。
悲鳴を上げながら振り返ると、そこには誰もおらず道の真ん中に盗まれたはずの黒の魔術師が落ちていたんです。
拾い上げると、今度は崖から突き落とされたような悲鳴が聞こえて、思わずそちらに視線を遣りました。
ペッタリペッタリは段々と遠ざかり、夕陽と夜の境目に姿を消すと、長々と続いていた悲鳴もそこで途切れてしまったんです。
カードですか? 今も家に大切に保管してあります。捨てたら怖い事が起きそうで。
それよりもガキ大将の事です。
あれから全く姿を見せないどころか、誰もそんな人を知らないというんです。
そもそも彼の名前は何というのですか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます