黒い花嫁
「知ってますか。
昔、あるところにそれは美しい女性がいたんです。艶のある黒髪や美しい歩き姿から百合の花と例えられるほどに。
名前は黒衣百合さん。
百合さんには好きな人がいたのですが、彼の前ではいつも頰が赤くなり、中々想いを伝える事ができませんでした。
共通の友人である親友の力を借りて告白すると、彼は快く了承し遂に結婚する運びとなったんですがこんな要望がありました。
黒いウェディングドレスを着てほしい。と。
百合さんは色白で白よりも黒の花嫁衣装が似合うからという理由でした。
大好きな人からのお願いという事で、張り切って特注のウェディングドレスを製作してもらいます。
式の当日、自費で用意した結婚式場で親族と共に新郎を待ちます。
しかし、約束の時間を一時間過ぎても、彼も親友も姿を見せません。
百合さんは親族が帰っても一人式場で待っていました。
彼から貰った懐中時計を胸に抱いて。
けれども半日経っても現れず式場から追い出されてしまいます。
無慈悲な夕立で濡れ鼠になりながら新郎の家に向かうと、玄関から親友の腰に手を回す彼が現れました。
声をかける間もなく二人は車に乗り込むと、百合さんの側を通り過ぎ、すれ違いざまに飛び跳ねた水が雨で重くなったウェディングドレスに追い打ちをかけました。
水を吸った黒い花嫁衣装を引き摺り新郎の乗った車を追いかけて十字路に差し掛かったときでした。
夕立の音と顔にかかる前髪のせいで気づかなかったのでしょう。
赤信号で車道に飛び出した直後、黒板を引っ掻くようなブレーキ音と水風船を潰したような破裂音と共に、血飛沫が花びらのように飛び散りました。
雨が止んだ十字路の真ん中、自身の血溜まりに沈む百合さんのウェディングドレスは朱と混ざりあって艶々と輝きを放ち、場違いなほど美しいかったそうです。
これは余談なのですが、
亡くなったときも貰った懐中時計を強く握りしめていました。
五指は鉄格子のように固く閉じられ、懐中時計も一緒に火葬されたんですが、残ったのは遺骨だけで真鍮製の時計は跡形もなく消えていたとか。
その後、事故のあった十字路に懐中時計が落ちているそうです。
針は彼女が死亡した九時六分三十六秒で止まっていて、もし拾ったら最後、新郎を探す黒い花嫁によって貴方の人生は終わりを迎える。
という話なのですが、これは完全な作り話ですね。だってぼく拾ったんですよ。十字路に落ちていた懐中時計。
でも悪い事は何も起こらず、幸せの登り坂を登るような毎日を送ってます。
プランナーさん。理由は分かりますよね?
そう一緒に来た彼女と出逢えた事です。
時間もはっきり覚えてますよ、二十一時半の三十六秒。
……あっ帰ってきた。おかえり、えっ、雑談してただけだよ。
ほっぺ膨らませないでよ。ぼくが愛してるのは君だけだから。もう可愛いなぁ。
すいません惚気ちゃって、そうだ。リクエストがあるんです。
彼女には黒いウェディングドレスでお願いします……って聞いてます?
笑顔がひきつってますよ。
もしかして、さっきの怪談を信じているんですか?」
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