第一幕 アオハル③
そして訪れたデート当日。
健生と幸は同じ家に住んでいるため、待ち合わせも何もない。せめて家を出るときはデートらしくしようということで、健生が先に家を出て玄関前で待機することになった。そんな彼の今日のファッションはネイビーのパーカーにカーキ色のアウター、黒のデニムパンツとスニーカーに、小さな黒のショルダーバッグである。髪の毛はちょっと背伸びしてワックスで整えてみた。ちなみに服は一が決めてくれたものだ。髪の毛をまだらに染めたりと奇抜なセンスが光る彼だが、無難なファッションもこなすらしい。
(なんか……緊張してきた……)
緊張で息が詰まる感覚を味わいながら、健生は幸を待つ。彼女を待っている間は用意したデートプランを頭の中で反芻したり、意味もなく辺りを見渡してみたりと、ずっと落ち着かない。デートで恋人を上手くリードできるか、幸はどんな格好で来るのか……いろいろな思考が頭を巡る。
高揚と不安が入り乱れる胸中でいると、玄関のドアが開く音がした。
「お待たせしました、健生様」
「あ、幸……さん……」
振り向いた健生は幸に見惚れ、言葉を失った。
今日の幸はブラウンの長いシフォン袖のワンピース。足元は長距離移動もできるように白のレースソックスに黒いスニーカー。鞄も靴の色に合わせて黒のミニリュック。耳元には金色の金具のパールイヤリングがついている。ただでさえ綺麗な彼女の顔はブラウンレッドのリップとブラウン系統のアイシャドウで彩られ、美しさに磨きがかかっていた。
「美緒や恋羽さん、茜さんに見てもらった服とメイクなのですが……いかがでしょうか?」
何も言葉を発さない健生を見て心配になったのか、幸は自分の服装を見直す。
そんな彼女の反応を見て、健生は「はっ!」と意識を取り戻す。
「すごく……すごく可愛くて綺麗だと思う……!」
幸が自分のためにここまでお洒落してくれたという事実が堪らなく愛おしく、何より嬉しい。
健生が思ったことをそのまま口に出すと、幸は顔をほんのりと赤らめて視線を健生から外す。
「あ、ありがとうございます……。健生様も……今日の服、よくお似合いです」
「そ、そうかな? 一が見てくれたんだ、ありがとう!」
それじゃあ行こうか、と健生は幸に手を差し出す。幸は少し恥ずかしそうに頷きながら、健生の手を取った。そして、二人は手を繋いで歩き出す。
そんな二人を電柱の影から見守る複数の影。一、護、雄馬、凛夜、冬樹の男子組と、恋羽、美緒、茜の女子組である。
「なんでみんな来てんの……」
「こんな面白いもん、見逃すわけにいかないじゃんかあ」
「健生殿、見守らせてもらいますぞ……!」
「い、いいのかなあ、こんなことして」
「俺達には見守る義務と権利があるんだぜ、凛夜‼」
「アンタたちまで来たのね……」
「お兄様、お姉様、麗しいですわ~!」
「冨楽~、さっちー、ファイトォ~」
もはや電柱の影に入りきらない人数がついてきている。健生たちが歩き出したのに合わせて、彼らもガヤガヤと動き出した。ここからは楽しいデートと楽しい探偵ごっこの始まりだ。
「ここは……」
到着したデート先は遊園地。健生の初任務で、唯とともに訪れた場所だ。幸もそれを覚えていたのか、穏やかな笑みを見せる。
「懐かしいですね……」
「あのときは任務でぴりぴりしてたし、俺達が遊んだりはできなかったから……今回は二人でのんびりできたらと思って」
「そうでしたね。……任務の時は唯様と手を繋いでいましたが、今は健生様と手を繋いでいる。感慨深いものがありますね」
「そうだね……俺も、幸さんとデートに来れるなんて思ってなかった。ありがとう、幸さん」
健生が礼を言うと、幸は微笑んで会釈をした。そして、健生の手をちょい、と引っ張る。
「では、行きましょうか。今日はプランを立ててくださったのでしょう?」
「……うん!行こうか」
そして健生と幸は遊園地に入場した。彼らを追いかけてきた一たちも慌ててバレないように一緒に入場する。
遊園地に入ると、あのときは緊迫して見えなかった周囲の家族連れやカップルの笑顔が視界に入る。なんとも居心地の良い雰囲気だ。
(確か……あのときはこんな風にもっとぴりぴりと……)
健生は初任務のときを思い出しながら、全身の感覚器官を強化する。すると、とある集団が自分たちをこっそり……できていたかは微妙だが、つけてきていたことに気づいた。一たちだ。
健生はそっと幸に耳打ちする。
「幸さん……気づいてる?」
「はい。皆さん、気になってついてきてくださったのですね」
「けど、ずっと見られるのは落ち着かないよね。……幸さん、ちょっといいかな?」
「ふふ。健生様も意外といたずら好きですね。いいですよ」
その瞬間、驚いたのは健生と幸をつけていた一たちだ。健生と幸の姿が、人込みに紛れて見えなくなった。そんなに激しい人込みではなかったはずだったのだが。
「あれ、冨楽とさっちーいなくなったぁ?」
「嘘だろ、もう入場しちまったぞ、俺たち‼」
(健生殿……気づきましたな……)
(アイツ、透明女の能力使いやがったなあ……)
慌てふためく美緒と雄馬。他の超常警察の関係者は、幸の透明化の能力が発動し、巻かれてしまったことに気づくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます