第七部 銃弾編

第一幕 アオハル

第一幕 アオハル①

 全ては昼休憩、福見美緒のこの言葉から始まった。


「えぇ~! さっちーと冨楽、まだ初デートしてないのぉ?」


 この言葉を聞いた屋上の二年生たち、健生、幸、護、一、雄馬は固まる。ちなみに茜は集団から少し離れたところでしゅん……と座っており、一年生組の恋羽、凛夜、冬樹は三人でグループを作って食事をしている。


「マジい? お前ら付き合ってるのにそれらしいことしてないのお?」

「文化祭は二人で回りましたが……」

「あれってデートじゃないの……?」

「いや~、文化祭はノーカンだろ‼」

「そういえば、バタバタで全然そんな機会ありませんでしたな……」


 それぞれがそれぞれの意見を口にする。健生と幸は文化祭を初デートと認識していたが、他の面子はそうではないらしい。事の発端の美緒は続ける。


「せっかくならさぁ~、なんかぁ、学校じゃなくってもっと他の所で遊びたいじゃん~?」

「そういうものでしょうか?」

「さっちーは無欲だねぇ、いい子だねぇ~」


 美緒はそう言って幸をよしよしする。何とも可愛らしい絵面だ。

 しかし、任務やら学校やらで健生と幸、二人の恋人らしい時間が取れてないのは事実である。


(これは誘うべきか……? けど、みんながいるところで言うのもなあ……)


 健生が「う~ん」と腕組みして考える健生。男子組の雄馬、一、護はこそこそと健生に声をかけてくる。


「おい健生‼ 彼女いんのに青春しなくてどうすんだよ‼」

「ははっ! 健生ってそういうとこあるもんなあ!」

「いやしかし、ラブコメではゆったりと時が流れるのもシチュエーションとして非常に良き……」


 もはや全員そこそこ大声なのでこそこそ話も何もあったものではない。それを聞いて思うところがあったのかは分からないが、幸が何事もないように無表情で健生に話しかけてきた。


「では、行きましょうか」

「へ……? 幸さん、どこに……?」

「デートです。今度、お休みが私と健生様で被るところがありますから、そこはいかがでしょう?」

「…………。 はっ! い、行こう! デート!」


(幸さんって本当にこういうところがあるよな……! そういうところも好きだけど!)


 健生は数秒かけて、幸からデートに誘われたことに気づく。慌てて幸の誘いに応えると、顔を真っ赤にし、それを隠すように両手で顔を覆った。胸がキュンキュンする。好き!

 そんな健生の様子を見て、外野は「は~……」とため息をつく。


「健生、漢気で柳に負けてんぞ‼」

「や~い、腰抜け健生~!」

「柳殿はクール系と見せかけて肉食系ヒロインですな……」

「甘々だねぇ~、砂糖マシマシだねぇ~」


 二年生組のやり取りが耳に入ったのだろう、食事を終えた一年生組もぞろぞろと健生と幸の様子を見に来た。


「今デートという胸キュンワードが聞こえましてよ! どなたのデートでして⁉」

「こ、恋羽ちゃん勢いがすごい……」

「そんなの健生と柳に決まってんでしょ……」

「可愛い後輩たちだぁ~、いらっしゃ~い」


 美緒は一年生組を快く向かい入れる。美緒は何だかんだ面倒見も良く、突如転校してきた茜、凛夜、冬樹のことも気にかけてくれているようだった。


「まあ、お兄様もお姉様もとうとう初デートですのね! それではわたくしも一肌脱がせていただきますわ!」

「こ、恋羽ちゃん、どういうこと……?」

「そんなの決まってますわ、お兄様!」


 恋羽は自信たっぷり、といった感じで胸を張り、健生やその他のメンバーに宣言する。


「わたくしがお姉様を可愛らしく、それでいて美しくコーディネートして差し上げますわ!お兄様とお姉様の初デート、全面バックアップさせていただきますわよ~!」

「えぇ~、何それ面白そぉ~! ウチもやるぅ。茜ちゃんもやろぉ~」

「な、なんで茜ちゃんまで……」

「いいからぁ~」


 女子組は何やら別の盛り上がりを見せ始めた。思えば、恋羽は最近メイクやお洒落に目覚め、美緒は幸のメイクをしたいとずっと言っていた。彼女たちにとっては今回のイベントは垂涎物だろう。

 今度は女子組の会話を聞いた雄馬が負けじと声を張る。


「おいおい‼ 男子組も負けてられねえぞ、健生‼」

「いや何が⁉」

「その通りですぞ健生殿!」

「このまま腰抜けで終われないよねえ」

「な、何だか楽しそう……!」

「……デートプランくらい健生が考えなよ」


 冬樹が仕方ないなあ、と書いてある顔で健生に言う。それを聞いて健生は合点がいった。


(た、確かに……! このままじゃ幸さんに全部任せっきりだ……!)


「さ、幸さん……」

「はい、何でしょう?」

「行き先とか、プランは俺に任せて……! 幸さんは当日が来るの待ってくれたら大丈夫だから!」

「はぁい、冨楽減点だぁ~」

「何で⁉」

「どこに行きたいかくらいは聞けよお」

「そうですぞ、健生殿!」

「あ……あっ、確かに……! というか、何で一と護はそんなに手馴れてるの⁉」

「これぐらい普通だろお?」

「恋愛シミュレーションゲーム、というのをご存じですかな?」


 せっかく少しはできるところを見せようとしたのにこの有様だ。やってしまった……と赤面する健生の肩に幸はすっと手を置く。


「私は、健生様と行けるならどこでも嬉しいですよ」

「……好きです」

「冨楽……頑張れぇ~」


 何もかも先手を幸に打たれる健生に、美緒が何とも言えないような顔で声をかける。

 何はともあれ、デートに行くことは決まった。あとは男子組と女子組に分かれての作戦会議だ。


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