第四幕 トモダチ④
「あとさあ、ついでにこの襲撃の実行犯、捕まえてやろうぜ。手土産もあれば、超常警察も少しは僕に優しくなるでしょ」
「は……はあ⁉ 何言ってんの⁉ 今は逃げないと……」
「びびってんのかよ。こういうことするやつはなあ、近くから様子を窺ってるもんなんだよ。まずは屋上に行こうぜ、健生」
一はそう言うと、階段に向かって曲がり角を曲がる。……曲がったと思ったら、今度は角から顔だけ出して、こちらを呼んだ。
「早く来いよお。お前がいないと、僕どこが屋上か分かんないんだけどお」
「え……あ……い、今行く!」
(逃げる気はないんだ……!)
取引が完全に成立したことに喜びを感じながら、健生は一を追いかける。二人とも能力者であるため、その動きは常人を超えたものだ。そんなある意味息の合った二人は、階段の前で幸、茜の二人に出くわす。
何より驚いたのは茜の変わりようだ。今までは常に文字通り怒髪天の迫力が表に出ていたのに対して、今はすっかり髪の毛も下に流れ、顔も俯き、どこか所在なさげな様子で幸にくっついている。
幸は健生と一が走ってきた様子を見て、ほっと安堵した表情を見せた。
「健生様! ご無事で何よりです……」
だが、彼女がそう声をかけたのも束の間。健生は一を背負い、腕を伸ばして階段を逆戻りする。その動きに違和感を覚えた幸が、慌てて健生に声をかけた。
「け、健生様……! どこに行かれるのですか⁉」
幸の驚く様子に申し訳なさを覚えながらも、健生は彼女に言葉を返す。
「幸さんごめん! 先に逃げてて! 俺達実行犯の確保に行く!」
「確保って……お二人でですか!」
「本当にごめん! けど行かなくちゃ!」
幸を置き去りにしてしまうことの罪悪感は半端ないものがあったが、今は一との協力が最優先だ。ここは一の勢いに乗るしかない。そう思いながら階段を上がり続けていると、一が背中から話しかけてくる。
「お前、あの透明女と付き合ってんの?」
「い、今はそんなことどうだっていいだろ!」
「ふ~ん? お前にとっては透明女と付き合ってることって『そんなこと』なんだあ?」
「ちっ、ちが……付き合ってるよ、付き合ってます!」
「へえ、お前ああいうのがタイプなの、知らなかったなあ」
「俺はタイプとか関係なく幸さん一筋なの!」
「惚気やめろ、砂糖吐く」
こんな場違いな、友達同士のやり取りをしているとあっという間に屋上に着いた。一は勢いよく屋上のドアをバァン!と蹴破る。
「よ~し着いたあ!」
「つ、疲れた……」
「何疲れてんだよ、これからだろ」
そう言って一は周囲の建築物を見回す。
「どうせどっか近くの建物から変な奴らがこっち見てんだよ。……つっても、駄目だな、野次馬が多すぎる」
一の言葉を受けて健生も辺りを見渡す。大規模な火災が起きたからだろう、周囲は消防車や救急車、それに多くの野次馬で埋め尽くされていた。
「なあ、一」
「なんだよ」
「この火災の実行犯、分身の能力使ってたよな? だったら、本体がどこかにいるんじゃないか……?」
「本体? ……なるほどな、やるじゃん、健生!」
一は健生の言葉を受け、もう一度周囲の建造物を見る。目を凝らして集中していた彼だったが、ある地点でその目はぴたりと止まる。
「あそこだ」
一の視線の先には、ビルの屋上からこちらを双眼鏡で見る四人組の姿。健生も視力を強化してその方向を見てみると、そのうちの一人がヘアバンドをした、分身と全く同じ格好の男であると分かった。
「ビンゴだね」
「だな。じゃあ行くぞ。健生、もう一回背中に乗せろ」
「いいけど……はあ、また晶洞さんに怒られるな」
健生は一を背中に乗せ、腕を伸ばしながらさながら蜘蛛のヒーローのように建物間を移動していく。なかなか爽快なのか、一は健生の背中で騒いでいた。
「ひゃっほう! いいじゃん、お前ジェットコースターになれるよお!」
「俺はなりたくない!」
男たちのいる屋上が近づくにつれ、彼らがざわつき始めるのが見えた。逃げられる前になんとか乗り込まなければ。
「一、一気にいくよ!」
「おう、来い!」
健生は伸ばした腕をぐいっとしならせると、一気に屋上への距離を詰め、体ごとそこに飛び込んでいく。一は健生の背中を蹴って、四人組のうちのヘアバンドをした男……レンに突っ込んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます