第四幕 トモダチ②
健生が一瞬よろけた隙を狙い、一は脱兎のように牢の外に飛び出す。この機会に逃げ出すつもりだ。
「待てよ、一!」
健生は慌てて一の背中を追う。一も獣化の能力を使っているため、健生と同じように炎など障害になりもしない。
「待つかよ!」
一は健生を振り返りもせずに答え、逃げるために上の階への階段を目指す。だが、それを阻むのがレンの大量の分身たちだ。
「お前ら、邪魔なんだよ!」
「うるせえ、お前も炎に焼かれちまえ、オラァ⁉」
殴りかかってくる分身たちを、一は容赦なく爪で切り裂いていく。だが、手数も手の数も多いのは相手の方だ。一は分身の一人に足を取られ、炎の中へと体を飛び込ませてしまう。
「……!」
だが、その命取りの瞬間を健生は見逃さない。素早く腕を伸ばし、一の服を掴んで自分の方へぎゅん!と寄せる。そして二人は背中合わせで炎と分身たちに向き合った。
「一、大丈夫⁉」
健生は自分に殴りかかってくる分身たちを硬質化させた腕で処理しながら、一に問いかける。それに返ってくるのは、一の拒絶の一言だ。
「助けろなんて頼んでない!」
一はそう言いながら、目の前の分身に八つ当たりをするように切りかかる。
「お前はいいよなあ、僕の事をそうやって助けて、見下してさあ!」
「見下してなんかない!」
健生は、一の視界の外から殴りかかろうとしてくる分身を一足先に殴って消す。
「嘘つけ! 僕のこと、選ばれなかった哀れなヤツって思ってんだろお!」
一は隙を見て、健生の足をガン!と思い切り踏む。健生はその痛みに顔をしかめながらも、一から一歩も引かない。
「一、どうしてそんなにアイツに、長法寺珠緒に選ばれたいんだよ⁉」
「だから言っただろ! お父様だけが、僕に価値を見出してくれたんだ! 親に捨てられた僕には、お父様しかいないんだ!」
叫ぶ一に、分身たちの突き、蹴り、足払いが一斉に襲い掛かる。健生はそれを背中から大量の腕を出し、分身たちの手足を拘束した。動きが止まった分身たちを、一は無慈悲に爪で切り付ける。
「だから、僕を助けるな!」
今度は一がこちらを振り返り、爪で顔面を突き刺そうとしてくる。だが、その手は健生の強化された強靭な腕に掴まれて止められる。
「本当にアイツだけが一に価値を見出してると思ってるのかよ!」
健生はそう言うと、一の腕を動かし、彼に迫っていた分身の顔に突き立てた。そしてそのまま、一と自分が背中合わせになるよう彼を方向転換させる。
「……は?」
「俺だって、一に価値を見出してる! もう一度、友達としてやり直したいって!」
健生は背中の腕を一気に前方へ集中させ、大量の分身を一気に殴り飛ばす!
「一が選ばれたいんだったら、俺が選ぶ! 犬塚一を、友達として俺が選ぶ!」
健生の脳裏に、一と過ごした中学校生活が蘇る。たくさん勉強して、たくさん遊んで、たくさん笑った。あの笑顔も、あの時間も全てが嘘だったわけじゃない。一にだって、楽しいと感じたときが、そんな一瞬があったはずだ。その一瞬が鍵のはずだ。
「もう一度、俺と友達になってくれ、一!」
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