第三幕 シュウゲキ④


「オラァッ‼」


 ガンッ‼


 山下の顔面に、分身の拳が命中する。その衝撃で山下の仮面が外れ、宙を舞った。その先にあるのは燃え盛る炎。


(仮面が……!)


 山下は届くはずのない仮面に、文字通りぐちゃぐちゃに崩れた表情で必死に手を伸ばす。山下の能力、『人相』の副作用は、時折顔面が文字通りぐちゃぐちゃに崩れてしまうことだ。


あれがないと、自分は人の顔を保てない!人間でいられない!


「ダメです、それだけは、それだけは……!」


 もうダメかと思われた。仮面はただの薪となり、炎にくべられる。山下の顔が一層崩れたそのとき。


「ああああああああ‼」


「新田さん⁉」


 新田が炎に向かって、拳銃もかなぐり捨てて突っ込んでいく。山下の仮面に向かって手を伸ばして。

 新田の指先が、仮面が炎の中に落ちる前に引っ掛かった。


「吉良さん!」


 新田は吉良の名前を叫びながら、手を上に向かって思い切り振り上げる。直後、彼は器用に人体発火し、炎を上手く無力化してみせた。炎の中に炎が飛び込んでも、何ら影響はない。


「ええ、任せて!」


 今度は吉良が、上空へと上げられた仮面に向かっていき、またもや指先を引っかける。


「えいっ!」


 彼女が仮面を放り投げた先にいるのは冬樹。彼は「おっとっと」と余裕そうな声で山下の仮面をキャッチする。


(い、今、何が起こったのでしょうか……)


 一連の出来事に唖然とする山下。

 だが、分身の「喰らえ!」という声ですぐ我に返り、身をひるがえして消火器を掴む。


「今度はこっちの番ですよお!フフフフフ‼」


 山下はそう言うと、周囲に消火器を噴射する。消火器の粉末をもろに受け、「うわあ!」という声とともに分身たちが消えていった。


(……これなら、銃弾を使わなくても良かったですね)


 そんなことを思いながら、害虫駆除をするかのように消火器を振り回す。


「わわ、私たちも加勢しましょう!」

「ええ、もちろんよ!」

「これならボクも使えるね」


 山下が隙を作ってくれた間に、新田、吉良、冬樹も消火器を手にして周囲を消火する。消火器の大量噴射を受け、後方支援組の部屋にいた分身はほとんどいなくなった。だが火の手は廊下にも及んでおり、すぐに退避した方がよさそうだ。


「消火器じゃちょっと力不足かしら……」

「たた、退避しましょう!念のため、消火器も持って!」

「そうだね……っと、その前に」


 冬樹はフードの中に入れておいた山下の仮面を、彼に手渡す。それを、目鼻立ちが若干崩れてしまった山下は呆然とした様子で受け取った。


「はい、山下さんこれ。燃えなくて良かったね」

「本当ね!新田さんナイスよ!」

「ここ、こんなことしかできませんから……!」

「いや、ちょっと待ってください皆さん」


 山下はわいわいと話す仲間たちの会話を止める。


「何であんな危険なことをしてまでわたくしの仮面を……。しかも、今わたくし、こんな顔ですよ?」


 山下の疑問に、三人は顔を合わせてきょとんとする。

 最初に口を開いたのは新田だった。


「でで、でもその仮面は、山下さんにとって大事なものでしょう……?」

「そうね!それに山下さんはこれまで一緒にやってきた仲間だもの!」

「顔……関係あるの?」


 はっと息を呑む。ふと、山下の脳裏に昔の事が蘇ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る