第三幕 シュウゲキ③
ここで視点は後方支援組、山下へと変わる。
彼は新田、吉良、冬樹とともに後方支援組の部屋にて、火炎瓶で武装したレンの分身を相手に苦戦を強いられていた。中には火炎瓶を持っていない分身もいるが、こんな状況下である、質の悪さではほぼ一緒だ。そして運が悪いことに、目が見えない彩川は休憩に出ておりこんなときに限って単独行動を取っている。
「状況はよろしくありませんねえ、フフフフフ‼」
山下は高笑いしながらもレンの分身を的確に打ち抜く。しかし、分身が持っていた火炎瓶が床に落ち、そこから火の手が上がった。逃げようにもレンの分身は際限なく湧いてきて、彼らの退路を塞いでくる。
「相手はきっと分身だから、自分たちがケガするのが怖くないんだわ!」
「文字通りの自爆ってことだね……!」
「ささ、彩川君も心配です!タイミングが最悪すぎですうううう‼」
吉良、新田も山下に混ざって応戦してくれているが、本当にキリがない。炎や煙の勢いもどんどん強くなってきており、このままではジリ貧だ。
(せめて消火ができればよいのですが……!)
山下は視界の悪い仮面の下から周囲を見渡す。確か、新田の人体発火対策として消火器が大量に置いてあったはずだ。だが、消火器が置いてある場所の前にはちょうど……、いや、意図的にレンの分身が立っており、取りに行くにはそれを倒さなければならない。そして、一番近い位置にいるのは自分だ。
(……行くしかありませんねえ!)
「新田さん、吉良さん!少しお任せしてもよろしいでしょうか、フフフフフ!」
「大丈夫よ!何となく考えは分かったわ、お願いね山下さん!」
「な、何とか頑張ってみますうう!」
「ボクは隠れてるからね!」
さて、仲間たちの了解も取れた。あとは自分があの分身を倒して消火器を取りに行くだけだ。……炎をかいくぐりながら。
「何だか高ぶってきましたねえ、フフフフフ‼」
山下は己を鼓舞するように笑うと、素早く数体の分身に銃弾をお見舞いする。そして分身が消えたときにできる一瞬の隙を見逃さず、彼は跳んだ。前転で着地をし、態勢を整えた刹那にもう一度銃撃。行く手の分身を確実に処理していく。一連の流れはあまりにも美しく、まるで手品のようだ。
「……山下さん、すご」
冬樹の口から思わず言葉が漏れる。
その呟きを聞いた吉良が、まるで自分が褒められたかのように嬉しそうにほほ笑む。
「もちろんよ!山下さん、射撃なら彩川君にだって負けないのよ!」
そんな仲間たちの声援を背に、山下は確実に消火器へと近づいていった。
(あと少し……あと少しです……!)
目の前に残ったのは消火器を取らせまいとしている分身ただ一人。彼は火炎瓶を持っておらず、拳を振り上げて山下に向かってくる。
「させねえぞ⁉」
普段の山下なら、この程度の拳など問題なく躱し、処理することができただろう。だが、今の状況は火災。周囲には煙が充満していた。
山下の仮面の隙間に、黒煙が容赦なく入り込む。
「グッ……!ゴホッ、ゴホッ!」
体を大きく動かしたこともあり、山下はついせき込んでしまった。そんな大きな隙を、分身が見逃してくれるわけはない。
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