第三幕 シュウゲキ

第三幕 シュウゲキ①

 銀行の襲撃事件から数日後。実行犯(達?)は警戒を強めたのかすっかり息を潜めてしまった。健生たち超常警察の面々は巡回や捜査に一層取り組んだが、彼らの尻尾はつかめていない。

 被害状況は収まったものの、実行犯が確保できていない現状は好ましくないだろう。一度任務について会議を開こうということになり、健生たち任務のメンバーたちは会議室へと再度集まった。

 今回の会議も市原が進行役。彼は渋い顔で全員の前に立つ。


「さて……こうしてもう一度集まったわけやけど……。前、銀行強盗事件があってから実行犯たちは息を潜めとる。被害が収まっとるからまだええけど、見方を変えれば何か企んどる可能性があるっちゅうこっちゃ。そこを防ぐためにも、早めに実行犯を捕まえときたい。せやから、ここらで一度作戦を考え直そうや」


 市原はそう言って、ホワイトボードに地図を貼る。


「まず、前被害のあった銀行の場所やけど……」


 健生は以前の銀行強盗騒ぎを思い出す。あそこで先走ってしまった自分のミスが、この事態を招いている。


(何だか、前と違った意味で気まずい……)


 そう思った健生はホワイトボードから目を逸らし、その横の窓から見える青空を眺めた。今回の会議は前衛組だけとは言え人数が多いため、窓を一つ開けている。そこから見える今日の天気は雲一つない快晴。鳥も飛んでいない、青一色の空。そこに、一つの黒点が映った。


(……ん?)


 健生はその黒点に目を凝らす。その黒い点は、徐々に徐々に大きくなっていき、こちらへ近づいてきているようだった。否、そう感じたのは一瞬の間。健生は素早く黒点に反応し、大声を上げる。


「伏せてください‼」


 その場にいた全員が健生の言葉に即座に反応し、体を伏せる。開いていた窓に飛び込んできたのは一本の瓶。先端には聖火のように炎が灯されている。だが、室内に入り込んできたそれは聖火のように尊いものではなく、人を害するために作られた残酷なもの。火炎瓶だ。


 パリィン‼


 派手な音とともに割れた火炎瓶から、床に炎が広がっていく。


「警報鳴らして!」


 市原が素早く指示を飛ばすが、室内の人間が警報を鳴らす前に耳障りな轟音が響き渡る。


 ジリリリリリリリリリリリリリリリリ‼


「……は? 何で……」


 この音は火災報知器の音だ。それも、施設中に響き渡っている。

 そう言っている間にも、大量の火炎瓶が窓から部屋に放り込まれ始めた。


 パリン‼ パキィッ‼ パァン‼


 様々な音を立てながら、火炎瓶は炎を室内にまき散らしていく。健生は窓から外の様子を確認しようとしたが、幸に止められた。


「健生様、危険です! 今は退避しましょう!」

「柳ちゃんの言う通りや! 各自、外へ退避‼」


 市原が号令をかけると、前衛組の面々は素早く部屋の扉を開ける。だが、扉を開けるとともに部屋に駆けこんでくる輩がいた。ホワイトボードに貼られた写真の男。健生が銀行で見た、ヘアバンドをした男が火炎瓶片手にこっちに向かって殴りこんでくる。


「あのときの……!」

「喰らえ、超常警察‼」


 健生は態勢を整えて対抗しようとするが、彼よりも早く反応した班員がいた。折部だ。


「はい、確保っスよ!」


 彼は腕を液状に変化させ、ヘアバンドの男の全身を、火炎瓶ごと包み込む。男は「チッ」と舌打ちをし、折部の液状となった腕の中で消えた。残ったのは、先端の炎が消えた火炎瓶だけだ。


「これで二次被害は防げたっスね……といっても」


 折部は他の班員とともに周囲を見渡す。そこら中に炎が燃え広がっており、煙が充満し始めていた。おまけに、周辺から怒鳴り声や悲鳴など、ただ事ではない人々の声が聞こえている。


「これじゃあ焼け石に水っスね。後方支援組の救援にもいかないと」

「後方支援組……青葉先輩!」


 後方支援組、という言葉を聞いた瞬間、古賀が即座に蔓を伸ばし、シュルシュルと階段を登っていった。完全な単独行動だが、彼女を責める者は誰もいない。


「市原君、ここからは……各班ごとに救援しよう……むにゃ」

「せやね。晶洞ちゃん、学生組のこと頼んだわ」

「分かりました、任せてください!」


 大人たちは段取り良くグループを決め、それぞれ別の方向に走っていく。健生、幸、凛夜の三人も任務と同じように晶洞に着いていく……はずだった。

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